愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「本当はね、今日、結婚記念日のお祝いをしようって約束していたの。仕事で帰りは少し遅くなるけれど、一緒にお祝いをしたいから、待っていてほしいって、そう言われていたの。だから、こんなことになるなんて思っていなかった……」

 その約束を思い出せば、切なく胸が締めつけられる。

 雅はこの約束に縋っていたのだ。清隆が二人の一年を祝ってくれるのなら、まだチャンスはあるのではないかと。清隆が雅を望んでくれるのなら、義母からの責めはあってもどうにかなるのではないかと。心のどこかでそういう淡い期待を抱いていたのだ。

「そっか。そんな約束をしてたんだ。お義兄さんは本当に姉さんのことを大事にしてくれてたんだね」
「ええ。とても……それなのにこんなことになってしまって。今日一緒にお祝いできないことのお詫びさえできない。きちんと自分の口で謝りたかった」
「姉さん……僕は姉さんが謝る必要はないと思うけど、でも、言いたいことは全部言ったらいい。我慢する必要はないよ。僕も一緒についていくから、姉さんの家へ帰ろう?」

 雅だってそうしたい。清隆と二人の家へ帰りたい。けれど、それは二つの理由からできなかった。

「それはできない。まだ二人がいるかもしれないもの……それに鍵も取り上げられてしまったから戻れないわ……」
「はあ!? なんだよそれ……どうしてそこまでするんだ……」

 誠一郎は我がことのように苦しそうに表情を歪めている。そんなふうに雅に共感してくれる誠一郎に雅は心が救われたような心地になる。今日のことを理不尽に思ってもいいのかもしれないとそう思えてくる。

 雅がそうやって誠一郎に救われていれば、誠一郎はさらに雅へ寄り添うように新たな提案をしてくれる。
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