愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 雅のその態度に、父はすぐさま雅に詰めよろうとしてくる。しかし、それよりも早く目の前の浩二が反応した。浩二は未だその顔に笑みを湛え、優しい口調で雅を容赦なく追い詰める。

「雅さん。勘違いをしてはいけないよ? 君にはね、これにサインをする以外の選択肢は残されていないんだ。清隆のためにもね」
「え?」
「もうすぐ私の兄は失脚するんだ。次の社長はもちろんこの私。そして、清隆の今後を決めるのも私だ」

 血の気がサーっと引いていく。そんなことあるはずがないと思うが、浩二は異様に自信に満ちた表情をしていて、彼の言っていることが本当のことだと思わされる。

「君がサインしなければ、彼はすべてを失うことになる。私が許すはずはないのだからね」

 浩二のぎらついたその瞳から彼が本気なのだとわかる。口元は笑っているが、目がまったく笑っていない。絶対に逃がさないとその目が語っている。

「君が私のもとへ来ると約束すれば、清隆だけは救ってやる。さあ、賢い君ならもうわかるね?」

 自分の息子が窮地に立たされているかもしれないというのに、義母はまったく気にしているふうではない。雅がサインすると信じて疑っていないのだろう。そして、それは正しい。

 清隆を人質に取られてはもう逃げられない。雅はすべてを受け入れるほかない。
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