愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
 義父による制裁はとうとう最終局面へ入る。

 義父は義母の前まで行くと義母に向かって冷たい口調で話しかける。

美智代(みちよ)、とうとう超えてはいけない一線を越えたな」
「何を言っているのかしら? 私は清隆にふさわしい結婚相手を見つけてきただけのことよ? 清隆の幸せを願っただけだわ」

 義母のその言葉に反応したのは義父ではなく清隆であった。

「はっ、白々しい。何が幸せだ。自分のことしか考えていないくせに」
「清隆っ! 私はいつだってあなたのことを考えているわ。あなたは私たちにふさわしい家柄の女性と結婚して、ちゃんとした血筋の跡継ぎをもうけるべきなのよ」
「どこがふさわしいというのですか? 過去の栄光に縋っているだけでしょう? 知っていますよ。大河内(おおこうち)桜子さん。あなたのご実家は今相当苦しいご様子。財産目当てで近づいたのでしょう? それのどこがふさわしいんだか」

 雅が初めて清隆と顔を合わせたときよりも、ずっと冷ややかな清隆のその口調に雅は驚く。これはさすがに桜子もショックを受けるだろうと思っていれば、その桜子が泣き声を漏らしながら清隆へ訴えはじめる。

「そんなっ、あんまりですわ。私は清隆さんを幸せにしたいという一心でここにおりますのに」
「ああ、そんな見え透いた演技は結構。あなた方の下劣な会話をすでに聞いていますから。あなたの本性はよくわかっていますよ?」

 涙声で訴える桜子にも、清隆は変わらずに冷たい声で返している。それに桜子はぐすぐすと泣き声を漏らし、その横にいる義母が代わりに清隆を責め立てる。

「清隆、桜子さんはとても清純な方よ。そんな言い方はよして頂戴」

 義母は一歩も引きそうにない。それに対して清隆は大きなため息をこぼしている。そして、なぜだか清隆は突然雅の耳を両手で覆いはじめた。義母の罵りが聞こえないようにしてくれているのだろうか。そんな予想をしてみるがそうではなかった。
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