愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
「尼ヶ崎さんが力を貸してくれてね。この短期間で新居を決められたんだ。まだ家具類は最低限しか揃っていないが、一応生活できるだけのものはもう整えてある。この場所は私の母にも、君の父にも知らせていないから安心してくれ」
「ありがとうございます」

 清隆の案内で家の中を見てまわれば、確かに生活するのに困らない程度のものは揃っている。残りのものはゆっくり用意すればいいだろう。

 一通り案内してもらったところで、持ってきた荷物を片づければ、もう夕飯を食べるのにちょうどいい時間帯になっている。この家にはまだハウスキーパーを頼んでいないということで、二人は外で食事を済ませてから、また新居へと戻ってきた。


 今すべきことは終えてしまって、もうあとはゆっくりするだけであるが、今日一日でいろいろなことが起こったせいか、あるいはこの家に慣れていないせいか、雅はとても疲れているのになかなか気を休められない。

 その雅の落ち着きのなさが伝わったのだろうか。清隆に風呂にゆっくり浸かるといいと入浴を勧められたから、雅はその提案を素直に受け入れた。

 浴室にはすでにシャンプーやボディーソープなど一式が揃えられていたから、雅はありがたくそれを使い、全身を洗ってから、湯を張った浴槽へと浸かった。

 温かいお湯に肩までしっかりと浸かれば、体の力が抜けていく。気持ちも徐々に落ち着いてきて、雅はようやく自分のいるべき場所に帰れたのだと実感できた。愛する清隆との暮らしに戻れたのだとそう認識できた。
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