愛なき政略結婚は愛のはじまりでした
第二章 意外な一面
 一晩が経ち、雅は激しい自責の念に襲われていた。

(私はなんて失態を……失敗は許されないのに)

 昨夜、あの恐ろしい記憶に支配されている間、自分がどうなっていたかの記憶はない。ただただ怖くて苦しかったことだけを覚えている。

 気づいたときには眉をひそめる清隆の姿が目の前にあった。どうにか謝罪の言葉は口にしたけれど、何もしないまますぐに寝室を出ていった清隆に、雅は自分が失敗をしたのだと理解した。

 父からは繰り返し何度も失敗をするなと言われていた。絶対に清隆には逆らうなと言いつけられていた。それなのに、よりにもよって、雅が一番に果たさなければならないそれで失敗してしまうだなんて、これからどんなひどい仕打ちを受けたとしても文句は言えまい。

 昨日、蘇ってしまった記憶の中の父と母の姿が、自分と清隆に置き換わって脳内で再生されていく。力で敵わない相手に一方的に支配される恐怖を想像して体が震えだす。雅は思わず「ごめんなさい」と呟いた。

 子供の頃に刷り込まれてしまった夫婦像は、雅の中に強く染みついていて、それがもう雅の中の常識になってしまっている。夫に逆らうだなんて絶対に許されない。夫を煩わせることがあってはならない。もしもそれが守れなかったなら、力による制裁が待っている。

 雅はこのあとのことを考えると、もうここから消え去ってしまいたい気持ちにかられるが、それでも雅にここから逃げ出すという選択肢はなかった。それもまた雅にとっては許されざる行為であるからだ。
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