一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
(うわ……)

 いかにも金持ちと言った具合の見た目をした妊婦は総合受付の前で足を組んで座っていた。

(もし、藤堂くんと結婚したら私もああなるんだろうか)

 私にはあんな高級ブランドもぎらぎらした装飾品も似合わないだろう。ああいうのを身に着ける勇気さえない。
 すると妊婦の口元がややひきつるような、歯を食いしばり苦しさが見え隠れするような、そんな風に見えて来る。

(様子がおかしい)

 次第に汗が額から流れ始めた。私は良心に従って、勇気を出して彼女に声をかける。

「大丈夫ですか?」
「あ……陣痛、かも……妊婦検診さっき終わったばっかなのに……」
「!」

 妊婦の顔に浮かぶ汗の量が徐々に増えてきている。

(これ、誰か呼んだ方がいいやつよね?!)
「すみません、看護師さんいますか?!」

 私がそう叫ぶと、フロアにいたベテランの看護師と声を聞きつけたであろう私服姿に黒いリュックを背負った成哉が、バタバタと走ってやって来た。

「いかがしました?」
「あ……おなかが、いたくて……」
「わかりました、藤堂先生、私車いす持ってきますね。産婦人科へこのピッチで連絡お願いできますか?」
「了解です。もしもし、外科の藤堂です、そちらの患者さんがですね……」

  
< 29 / 135 >

この作品をシェア

pagetop