一夜を共にしたかつての片思い相手は、優秀外科医だった。〜憧れの君と私の夢〜
 電話が終わると妊婦は車いすに乗せられ、そのまま産婦人科のあるフロアへと風のように運ばれていった。

「これで後は向こうに任せよう」

 成哉が私に右手を差し出す。これは、握って良いとの事だろうか?

「握って良いの?」
「うん、どうぞ」
「じゃあ……」

 おそるおそる彼の手を握ると、優しく握り返してくれた。手からは温かな温度が伝わってくる。

「行こう」

 成哉の手に導かれ、総合病院を出る。櫻坂を超えた先にある高級住宅街に彼の住宅があるようだ。いつの間にか引っ越しでもしていたんだろうか。

「一軒家?」
「おじいちゃんが前に暮らしていた家を別荘代わりに使ってるんだ。売ったり取り壊したりするのもったいないしさ。今は俺が1人で暮らしてる」
「そうなんだ」
「歩ける? タクシー呼ぼうか?」
「いや、大丈夫」

 とはいったが、まだ身体が本調子じゃない。結局成哉がタクシーを呼んでくれて、家まで乗せてくれる事になった。

「ごめん……」
「いいって」

 タクシーが止まった。窓からは大きな豪邸が幾重にも渡って並んでいるのが見える。ここがベリが丘の高級住宅街か。まるで海外の高級住宅街のような雰囲気だ。

「到着いたしました」
「ありがとう」

 タクシー代も成哉が払ってくれたので、なんだか申し訳ない気分になってしまう。
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