彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
しばらく待ったが、全く帰って来る気配がなかった。
残業なのかもしれないと思い、会社まで車を飛ばしたが、事務所の電気は消えていた。
週末だし、もしかしたら飲み会か?

「俊佑くんか?」

突然声をかけられ振り向くと、永峰さんが驚いた表情でこちらに視線を向けていた。

「どうしたんだい?」

「すみません、美音はもう帰宅しましたでしょうか?」

「今日は定時に帰ったはずだよ。まだ帰っていないのかい?」

「はい、連絡しても繋がらなくて」

「おかしいねぇ」

永峰さんも自らのスマホでかけてはみたものの、やはり繋がらないようだった。

「美音に何か変わったことはありませんでしたか?」

「変わったこと?」

「すみません、ここのところ忙しくて美音と話ができていないもので」

「医者という仕事は患者さん次第だもんな。美音ちゃんはちゃんとわかっていると思うよ」

「はい」

「あぁ、そうだ。変わったことに入るのかどうかはわからんが、うちで使ってるパソコンソフトの会社の担当者が変わって、挨拶に来たくらいだろうか」

「担当者、ですか? 誰に変わったんですか?」

「センザイさんとかいったかな」

「センザイ……」

確か、美音の元彼の名前はセンザイトシヤだった。
嫌な予感が頭をよぎる。冷や汗にも似た汗が背中を伝った。

「ありがとうございます。もう少し家で待ってみます」

「美音ちゃんが帰ってきたら連絡くれるかな?」

「わかりました」

番号を交換し、永峰さんと別れた。
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