彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜
そろそろイチョウ並木が色づき始める。
今年の晩秋は昨年が比にならないくらいに忙しくなりそうだ。

父と昭二おじさんの元職場である大手電気工事会社 ‘’日帝電工(にっていでんこう)‘’ が不正工事で摘発された。
数年前から不正は行われていたようで、2年前、現社長に交代してから、イエスマンだけを優遇するワンマン経営と化していた。社長の経営方針に納得いかず意見した結果、退職に追い込まれた社員が次々に告発していったのだ。

行き場をなくした数人を、永峰電気工事店で採用することになっている。
昔は不正などありえない職人気質な会社だったのにと、昭二おじさんは嘆いていた。きっと父も同じように嘆いていることだろう。

摘発により、顧客の流出も止まらない。
その流出した顧客に頼られているというのが現状だ。

顧客の中には大手企業もある。ギリギリまで契約を続けてきた高椿(たかつばき)グループもその一つだ。
高椿グループは創立当初、日帝電工の助力を受けていた。
内情を計り知ることはできないが、切るに切れなかったというのが本音ではないだろうか。

先日、高椿グループの会長から連絡があり、社長と専務が高椿本社に足を運んだ。 
戻ってきた二人が口にしたのは、べりが丘にある高椿グループの施設に関する電気工事業務を請け負うことになったという報告だった。
父と母が出会った "ホテルデュスイートべりが丘" もその一つだ。

高椿会長は、社長と父が社員だった頃を知っている。
もちろん、その仕事ぶりも、永峰電気工事店の評判もだ。緊急に行われた重役会議で、今後の委託業務先として、有名企業が名を連ねる中、会長自ら推薦してくれたようだった。

「さぁ、今年から忙しくなる。みんな気を引き締めて頑張るぞ!」

社長の掛け声に嫌な顔をする社員は誰一人としていない。それは、働いた分、社長がしっかりと還元してくれるということがわかっているからだ。
決して私腹を肥やさない。社員を第一に考える。それが、永峰昭二という人だ。
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