彼に抱かれ愛を弾く 〜ベリが丘恋物語〜

病院に到着し、彼女を横抱きにしたまま裏通路を抜ける。
処置室に駆け込むと、既に季織が待ち構えていた。
彼女をベットに横たえ、これまでの経緯を説明すると、診察しながら聞いていた季織が口を開いた。

「もしかしたら、何か既往歴や現病歴があるのかも。ちょっと失礼して」

季織が彼女のバッグの中を探る。
カードケースを見つけたようだ。
中身を確認すると、保険証、診察券、学生証が入っていた。

有名音大のピアノ科に通う学生で、名前は桃園美音。

驚いたのは、診察券がこの病院のものだったということだ。

季織がパソコンでNo.を確認すると、彼女の名でカルテが登録されていた。
突発性難聴で入院歴がある。
季織は担当医に連絡を取り、処方など諸々の確認を行った。

担当医によると、今は症状も落ち着いており、定期的な検査で様子を見ている状態だったという。
何か大きな精神的負担がかかってしまい、もしかしたら、再発してしまったのではないかという見解だ。
めまいと音が二重に聞こえる症状があるのなら、再発で間違いないだろうとのことだった。

「音楽家で突発性難聴を患うなんて、とても辛かったでしょうね。再発なんて、余程のストレスがかかってしまったのね」

俺の目の前で眠る彼女は、目を覚ます気配がない。

みおん……

「やはり君だったんだな」

そっと頭部に触れ、髪を撫でた。
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