陽之木くんは、いつもそうだ。
初デート
 ◇

 高校から十五分ほど歩いたところに、最寄り駅がある。
 生徒のほとんどがこの駅を利用するので、高校側にある東口には同じ制服の生徒が我が物顔で歩行者天国を闊歩している。
 その生徒たちに紛れながら駅の階段を上がり、改札口の前を素通りして、反対側の西口に出た。
 比較的新しい流行りの店が立ち並ぶ東口に対し、昔ながらの商店街しかない西口には人が少なく、途端に生徒の姿もなくなる。
 この一年でまたシャッターの数が増えた寂れた商店街の中をしばらく歩いていくと、大きなボウリングのピンが目印の、赤茶色に錆びた看板が見えてくる。
 ウキウキボウル。
 昭和初期からある小さなボウリング場だ。
 レトロと言えば聞こえはいいのかもしれないけど、お世辞にも綺麗とは言えない。

 私と陽之木くんは、一度だけここでデートなるものをしたことがある。
 それはある日の放課後、帰ろうとした私の前に突然現れた陽之木くんが、いつもの気まぐれで「デートしよう!」と言ってきたことが発端だった。 ちょうどその日返ってきた芳しくない模試の結果に『もっと勉強しなくては』と目を血走らせていた私は、例の如く「しない」とレシーブエースを決めたのだけど、陽乃木くんは「息抜きも必要だよ」と私の手を引いた。
 そして連れてこられたのが、このウキウキボウルだった。
 
 自動ドアを潜り抜けるとこれまた古いラインナップのゲームコーナーがあって、その先にボウリングの受付がある。 二階にはカラオケとビリヤードもあって、意外に客足の途絶えないウキウキボウルでは、常に四方八方から煩い音が響いている。
 当時、初めてそういう場所に来た私はその音や空気が怖くて、陽之木くんの背中に隠れて縮こまっていた。 そこから先もあまりいい思い出は、ない。
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