陽之木くんは、いつもそうだ。
「誕生日、おめでとー!」

 制服姿の陽之木くんは楽しそうに言って、パンッと手に持っていたクラッカーを鳴らした。
 そして思い出す。
 三月九日。 今日は、私の誕生日。

「ハハッ、ビックリした? ごめん、茅野ちゃんの驚いた顔好きなんだよね。 許してー」

 世界の終わりみたいな顔をする私に向かって、小さな画面の中の陽之木くんは楽しそうに笑う。

「今日は卒業式と茅野ちゃんの誕生日でダブルめでたい日だからさ。 受験でお疲れの茅野ちゃんに遊んでリフレッシュできるプレゼントがしたかったんだ。 どう? 楽しかった? え、また振り回しやがってって? あはは、許してー」

 陽之木くんが、笑っている。
 頭の処理が追い付けないまま、これまで一度も溢れることのなかった透明な感情が、はらり、目からこぼれ落ちた。

「えっとー、元々は一緒に思い出巡りしたかったんだけど、大学の寮の関係でどうしても卒業式のあとすぐに行かなきゃいけなくなっちゃって。 茅野ちゃんのことだから、きっと俺がいなかったら卒業式終わって即、帰っちゃうでしょ。 だから謎解きごっこして待っててもらおうと思ったってわけ。 そんでこれ見てるってことは、ボウリングしてきたってことだよね。 俺、間に合った? そこにいる?」

 陽之木くんに聞かれて、反射的に横を見るけど当然、いない。

「ちゃんと楽しめたかな。 初デートのボウリングは……まぁ、色々あったからさ。 リベンジしたかったんだ。 俺の好きな場所、茅野ちゃんにも好きになって欲しくて。 あと、そう、当日バタバタして送り損ねそうだから、送信予約使ってみたんだけどちゃんとできたかなー。 初めて使ったわ、送信予約」

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