星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~【初期版】
しばらく走って行った先で、はあはあと息を切らして絃斗は立ち止まった。
駅前の広場から直進して商店と住宅とビルとが混在する歩道の真ん中だった。街路樹が作った影に入ると、少し涼しかった。
「もう無理」
「なんで逃げたの」
同じように息を切らしながら、詩季は言った。
「だって……」
それだけを言って、絃斗は肩で息をする。
「……拍手、すごかった」
詩季は絃斗の答えを待たずに言った。
「僕も久しぶりに楽しかった」
荒い息のまま、絃斗は笑顔を見せた。
爽快感が胸に沸いた。久しぶりの感覚だった。
「手拍子、気持ちよかった」
「会場と一体になった感じがありましたね」
「踊り出す子もいて」
「かわいかったですよね!」
そのまま二人は声を上げて笑った。
ひとしきり笑って、息を整えながら周りを見ると、一枚のポスターが目に留まった。
市の掲示板に貼られたそれには見知った顔が映っていた。
「これ……」
「あ、な、なんで!? 見ないで!」
絃斗は慌ててポスターに覆い被さるが、隠しきれていない。そこには絃斗が黒い服を着てハープを弾いている姿があった。
「満星絃斗、全国ツアー開催! って……すごい人だったのね。来週スタートじゃない」
絃斗は顔を赤くしてうつむく。
「なんで隠してたの?」
「……知られたくなかったから」
「答えになってないけど」
詩季は、黙ってうつむく絃斗を見た。
彼は評論家に酷評されて傷付き、ハープを弾きたくないと言っていた。ここでそれを追求するのも彼を傷付けるかもしれない。
「今日は楽しかった。ありがとう」
だから、それだけを言った。
絃斗は顔を上げた。なにかを我慢するように、彼は微笑した。