星が歌ってくれるなら ~ハープ奏者は愛をつまびく~【初期版】
気が付いたらもう日が暮れかけていた。
「晩ごはんどうする?」
「作ってくれるんですか?」
絃斗は目を輝かせた。
そういうつもりで聞いたんじゃないのにな、と詩季は戸惑う。
もう帰るとか、駅前の店で食べようとか、そういう返事がくると思っていた。
うーん、と詩季は迷う。手作りをふるまうなんて、まるで恋人みたいだ。
「ハンバーグがいいです。作り方教えてください」
「初恋の彼女に教えてもらえばいいんじゃない?」
「詩季さんに教えてもらいたいんです」
絃斗を見ると、真剣な目でこちらを見ている。
仕方ない、と詩季は苦笑した。
変なことをするわけでもないから、彼女には許してもらおう。
「手抜きな方法で良ければ」
「それがいいです!」
絃斗はわくわくを抑えきれない様子だった。
カラオケ大会の人に見つからないように、遠回りをして帰った。
途中、スーパーで玉ねぎとひき肉を買った。サラダはカットされたものを買った。
帰ってから、まずは玉ねぎをみじん切りにした。
「僕もやりたいです」
「ダメ。指を切ったら演奏に差し支えるでしょう?」
「あなたまでそんなこと言うんですか」
絃斗はすねた。
だが、コンサートが近い彼の手になにかあったら大変なことになる。
「その代わり、お肉をこねて。こねるの大事なのよ」
「子供扱いされてる」
「そんなことないわよ」
くすっと笑ってしまったら、彼はなおさらすねた。
「絶対そうだ」
「はいはい、じゃあこれお願いね」
ボールにミンチとみじん切りの玉ねぎを入れて、卵と牛乳にひたしたパン粉と塩コショウを入れる。そのボールをテーブルに置いて、絃斗に使いすてビニール手袋を渡した。
「玉ねぎは炒めておくと辛みが飛んで香ばしさがアップするんだけど、生で作った場合はさっぱりジューシーになるのよ」
絃斗はおそるおそる手袋をはめた手を入れる。
「なんかむにゅっとする」
引きつった顔を見て、詩季はまた笑った。
「笑わなくても」
すねたように言い、絃斗は手を動かす。
材料が混ざって来て粘り気が出たあたりで詩季は彼を止めた。
「次は成型ね。二人分の材料だから、半分にして丸めて」
絃斗はボールのように真ん丸にした。
「そう来たか」
くすくす笑うと、絃斗は不満そうに口を尖らせる。
「ここからまた次の指示があると思ったんだから!」
「じゃあ、それを平らにして」
くすくす笑いを止められず、詩季は言った。