Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「悪いのは犯人で、茉莉花は何も悪くない。いいか? 何も悪くないんだ」
囁くように言った唇が私の頬に触れ、涙を啄んだ。
え、と思う間もなく、羽根のように軽いキスが繰り返される。
額へ、目尻へ、瞼へ、耳へ、落ちて……
「……茉莉花」
熱い吐息と共に、私のそれと重なった。
「……っ……?」
二度三度と啄まれ、唇の間を舌になぞられる。
まるで、開けろ、と命じるみたいに。
泣きすぎてぼんやりした頭のまま、私は深く考えることなく薄く唇を開いた。
「んんっ……」
するりと入って来た舌にびっくりしてとっさに逃げを打つも、唇を塞がれていて抗議もできない。
その間も私の咥内を暴くように蠢く舌。
味わうみたいに歯列を、口蓋をじっくりなぞり、やがて私のそれへと絡みつく。
ゾクゾクするほど官能的な刺激が生まれ、指先まで痺れが走った。
なんで?
なんでこんなキス……興味ないんじゃ……
あぁそうか。
これは同情のキスだ。
泣き止まない私を、慰めるためのキス。
彼の優しさ。
だったら、今だけその優しさに甘えてもいいかな?
許されるかな? 今だけ、だから……
「んっ、……」
自分に言い訳しつつおずおず彼の首へ腕を回すと、願いは瞬く間に叶えられた。
「は、ぁっ……ぅんっ」
髪の中に彼の手が潜り、私の顔はさらに引き寄せられる。
差し込まれた指が頭皮を撫でて、そのたびに浅ましく腰が揺らめいた。
深く、濃く、絡み合う舌に、交じり合う唾液に、陶酔する。
気持ちいい……
信じられない。こんなに気持ちいいこと、今まで知らなかったなんて。
白く、ぐずぐずと溶けていく思考。
私はただただ夢中で彼にしがみつき、彼がくれる心地よさに身をゆだねた。