Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

「悪いのは犯人で、茉莉花は何も悪くない。いいか? 何も悪くないんだ」

囁くように言った唇が私の頬に触れ、涙を啄んだ。

え、と思う間もなく、羽根のように軽いキスが繰り返される。
額へ、目尻へ、瞼へ、耳へ、落ちて……

「……茉莉花」

熱い吐息と共に、私のそれと重なった。

「……っ……?」

二度三度と啄まれ、唇の(あわい)を舌になぞられる。
まるで、開けろ、と命じるみたいに。

泣きすぎてぼんやりした頭のまま、私は深く考えることなく薄く唇を開いた。


「んんっ……」

するりと入って来た舌にびっくりしてとっさに逃げを打つも、唇を塞がれていて抗議もできない。

その間も私の咥内を暴くように蠢く舌。
味わうみたいに歯列を、口蓋をじっくりなぞり、やがて私のそれへと絡みつく。

ゾクゾクするほど官能的な刺激が生まれ、指先まで痺れが走った。

なんで?
なんでこんなキス……興味ないんじゃ……

あぁそうか。
これは同情のキスだ。
泣き止まない私を、慰めるためのキス。
彼の優しさ。

だったら、今だけその優しさに甘えてもいいかな?
許されるかな? 今だけ、だから……

「んっ、……」

自分に言い訳しつつおずおず彼の首へ腕を回すと、願いは瞬く間に叶えられた。

「は、ぁっ……ぅんっ」

髪の中に彼の手が潜り、私の顔はさらに引き寄せられる。

差し込まれた指が頭皮を撫でて、そのたびに浅ましく腰が揺らめいた。

深く、濃く、絡み合う舌に、交じり合う唾液に、陶酔する。

気持ちいい……

信じられない。こんなに気持ちいいこと、今まで知らなかったなんて。

白く、ぐずぐずと溶けていく思考。
私はただただ夢中で彼にしがみつき、彼がくれる心地よさに身をゆだねた。


< 130 / 402 >

この作品をシェア

pagetop