Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
8. ラグジュアリー・バースデー

「へぇ、IELTS(アイエルツ)なんてやってるのか」

艶めいた低音が頭上で響いてハッとテキストから顔を上げるのと、そのテキストが私の手から抜き取られるのはほぼ同時だった。

場所はリビングのソファ。
夕食と入浴の後、日課となってる英語の勉強中だった私の隣へ、同じくお風呂を済ませたらしいクロードさんがどさっと腰を下ろした。

その振動にドキリとざわついた胸の内をひた隠しつつ、テキストをペラペラと興味深そうにめくる彼へ、取り繕った笑顔を向けた。

「っは、はい。何か目標があった方がはかどるかなと思って。学生時代に受けたことがあったので、もっと上のスコアを目指してみようかと」

ちなみにIELTSというのはTOEICやTOEFLと同じように、英語力を測るテストのことだ。

「ふぅん。リスニングやスピーキングなら俺も協力できるな。読んでやろうか」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん。むしろ、なぜ頼ってくれないんだと言いたい。一応(・・)、英語は得意なんだが?」

面白がるように覗き込んでくる彼へ「はは、は、ネイティブですもんねー」とぎこちなく微笑み、テキストを奪い返す。

「じゃあまたお時間のある時にぜひ」

素早く目を逸らしたけれど、無駄だった。
チラリと視界を掠めた彼の口元、そのセクシーな唇は否応なく瞼に焼き付き、数日前経験しためくるめくひとときを私の脳内へ引きずり出したから。

あの唇と、キスしたんだ。
激しく貪られた唇はジンジン痺れて、直後はまともに動かなかった。

熱くて柔らかな咥内、濡れた舌の感触は、今でもリアルに思い出せる。
そういうこと(・・・・・・)に興味がないなんて信じられないくらい慣れてる感じがしたし、めちゃくちゃ気持ちよくて……

< 131 / 402 >

この作品をシェア

pagetop