Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

軽度の一酸化炭素中毒に加えて、風邪をこじらせて肺炎になってしまった私は、結局2か月近くも入院することになった。

そこへ毎日のようにお見舞いに来てくれたのが学くんだった。
事件の影響か、たびたび過呼吸を起こした私の頭を優しく撫で、気持ちが落ち着くまで寄り添ってくれた。

――ほら、深呼吸してごらん。
――一回、二回、ほら、大きく吸って、吐いて、そう、上手だ。


といっても、処方された薬の影響で昼間でも眠くてたまらなかった私は、あまりそのことを覚えていない。ただ誰かが傍にいてくれたという感覚が残っているだけ。

それが学くんだと知ったのは、枕元にいつも置いてあるジャスミンの花を不思議に思って看護師さんに尋ねたから。
火事の時に助けてくれたお友達よ、って言われてすぐに学くんだとわかった。

随分恩知らずなことをしたものだと思う。
ようやくお礼を伝えられたのは、退院日が決まった頃だった。

検査から戻ってくると枕元にまたジャスミンの花が置かれていて、慌てて追いかけて、エレベーターに吸い込まれていくその後姿に叫んだんだ。

――学くん! いつもお花、ありがとう!


――茉莉ちゃん。
――君が笑ってくれたら、僕も嬉しいよ。


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