Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

そんなこんなで、私は事件後2か月も病院に閉じ込められていたわけだけど。

柊馬に言わせると、それは「ラッキーだった」らしい。
家はマスコミが押し寄せて大騒ぎだったそうだから。

お父さんは、我が家の太陽だった。
お母さんはその寒いダジャレにいつも文句を言って鋭くツッコんでいたけど、お父さんのことを誰より愛してた。

ろくに悲しむ時間すらなく、警察やマスコミ、そして塾の生徒さんや家族、そのすべてに対応しなきゃいけなかったお母さんの心労は、どれほどのものだったか。まだ幼く何もわからなかった柊馬ですら、その背中には声をかけられなかった、と随分後で教えてくれた。



「事件直後に富田が海外へ逃亡したことは、当時も掴んでいたんです」

男性の声で、物思いに沈んでいた私はハッと顔を上げた。

「宮原さん、大丈夫ですか?」

視線を動かして、テーブルと4脚の椅子のみが置かれた、会議室らしきこぢんまりした室内を見渡す。
目の前に座っているのは、黒のビジネススーツの男女……

そうだ、買い物に行こうとしたらエントランスで刑事さんたちに会って、富田が死んだことを聞かされて。
込み入った話になりそうだと、コンシェルジュさんがここ――マンション内のコワーキングスペースにあるミーティングルーム――を手配してくれたんだっけ。

「は、はい、もちろん大丈夫です。続けてください。富田のことですよね。海外に逃亡していたとか。噂では聞きましたけど、本当だったんですね」

警視庁の刑事さん2人――大塚さんと池田さん――へ促すと、大塚さんは再び口を開いた。

「えぇ、香港から上海へ渡ったことまでは確認できたんですが、その後の足取りがさっぱりわかりませんでした。消えてしまったんです。捜査は暗礁に乗り上げた――」

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