Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
薬品の匂いがほんのりと漂う白い廊下をわき目もふらずに速足で進む。
そしてようやく目指す病室の番号と名札とを確認すると、ドアをガラッと横へスライドさせた――
「おばあちゃんっ!」
中は4人部屋。
2×2で並んだベッドのうち、窓際の1台から「まーちゃん、ここよここ!」と手を振っているおばあちゃんが見えた。
顔色はよくないが、予想していたよりはずっと元気そう。
深い安堵を覚えつつ近づいて行くと、ベッドサイドの丸椅子に腰かけていた年配の女性が立ち上がった。連絡をくれた、ご近所の日比野早紀さんだ。
「よかったわね、美津江さん。お孫さんが来てくれたら一安心ね」
「ごめんなさいねえさっちゃん、ずっと引き留めちゃって」
もちろん私も急いで頭を下げた。
「本当にありがとうございました、祖母を助けていただいて」
今朝玄関で転んで動けなくなっていたところを、偶然野菜のおすそ分けに来た日比野さんが見つけてくれたのだとか。
検査の結果骨折していたそうだから、動けなかったのも無理はない。
「いいのいいの。お互い様ですよ。頭を打ってたんじゃなくてほんとによかったわ。じゃあ私はこれで」
「はい、ありがとうございました」
手を振った日比野さんは、遅れてドアから入って来た学くんに目を丸くしつつ会釈して、入れ違いに部屋から出ていった。
「あらまーちゃん、そちらの方は?」
「ええと、藤堂学さん。ほら、幼馴染の香ちゃん覚えてる? 彼女のお兄さんだよ。たまたま一緒にいる時に日比野さんの連絡聞いて。車でここまで送ってくださったの」
「まぁまぁそうなの。すみませんねえ、ご面倒をおかけして」
たまたま一緒にいた、という部分をツッコまれるかなと思ったけど、おばあちゃんは何も言わずニコニコ。ていうか、ちょっとうっとり見惚れてる感じ。
そう言えばおばあちゃん、面食いだったっけ……。