Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
ハッと涙に濡れた顔を上げると、心配そうな学くんの目とぶつかった。
「ご、ごめ、ごめんなさい。こんなところで、泣いたりしてっ」
病院内のカフェだというロケーションをようやく思い出し、急いで涙をぬぐう。
藤堂先生が女を泣かしてたとか、変な噂が広がったら大変だ。
時間帯のせいなのか店内は閑散としてるとはいえ、そういう問題じゃないよね。
「気にしないで。僕が女性を泣かせるなんて、日常茶飯事すぎて誰も気にしないし」
ね、とウィンクされて、思わず泣き笑い。
さすが、王子様キャラは変わらないなぁ。
「あーあ、バレンタイン当日に緊急の用事っていうからさぁ、もしかしてもしかするかもって心の準備してたのに、まさかの撃沈とはね」
へ? ……ん?
バレンタイン??
一瞬にして涙が引っ込んだ顔をギギギとずらせば……カフェの入口に、“今日はバレンタイン!”“チョコレート販売してます”などなど、カラフルなポップの文字が飛び込んでくる。
「はっば、バレンタインっ!? 今日!? ごごごめんっ私、全然気づかなくてっ、っていうか忘れてて! 何も用意してなくてっ」
サーっと青ざめて慌てふためき、謝り倒す私の姿に、学くんはぶはっと吹き出した。
「なるほどね、僕は全く脈なしだってことがはっきりわかったよ」
「ごごごごめんなさいっ」
「いいよいいよ。これできっぱり諦めがついた」
くすくす肩を揺らしつつ言った学くんは、「じゃあ僕はそろそろ」と腕時計に目を落としてから腰を上げる。
「ご、ごめんね! 忙しいのに無理やり時間作ってもらっちゃって!」
白衣の背中に向かって声を投げると、歩きかけた彼の足がピタリと止まった。
「……謝るのは僕の方だ」
「え?」
肩越しに、寂しげに伏せた眼差しが振り返る。
「15年前、退院した君から『助けてくれてありがとう、全部学くんのおかげだよ』って手紙をもらって、君がカン違いしてるって気づいたのに……君の王子様になれることが嬉しくて、ホントの事言えなかったんだ。ごめんね、茉莉ちゃん」
「学く……」