Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
自分の顔から、表情という表情が抜け落ちるのがわかった。
体温が、周囲の温度が、ぐっと下がっていく心地がする。
バカね、わかってたはずじゃない。
クロードさんにはもう、彼女がいる。
ううん、もともとクロードさんは彼女のものだったんだ。
そこへ、私が割り込んだだけ。
彼は、私を放っておけなかっただけ。
おぼつかない足をなんとか動かして、ぎくしゃくと柱の影へ身を隠す。
彼が、自分と同じ気持ちだとでも思ってたの?
逢いたいと思っていてくれるとでも?
どこまでおめでたいの。
こんなことしたって、未練が募るだけなのに……
心の中でつぶやいて唇を引き結び、袋を胸の中にギュッと抱え込む。
カツカツ、カツカツ、……
そんな私の潜む柱へ、迷いのない2組の足音が近づいてくる。
その距離、わずか数メートル。
けれど、心の距離は地球と月ほどにも離れていて。
決して触れ合うことなんかない。
そうして、切なく苦しい現実に打ちのめされた私が、きつく目を閉じた時だった。
足音に交じって「浮かない顔ね」と揶揄うようなソプラノが聞こえた。
「原因は、奥様との別居?」
高橋さんの声だ。
「…………」
「そもそも、離婚前提の結婚だって言ってたじゃない。計画通りなのに、なぜそんなに機嫌が悪いの?」
「……結婚したのは間違いだった。俺たちは、出会うべきじゃなかったんだ」