Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「私に、事件から手を引け、ってことですか?」
低い声を出すと、初めて彼が漆黒の瞳を見開き、仮面が一瞬剥がれた――すぐに皮肉っぽい笑みで取り繕われたけど。
「理解が早くて助かるな。その通りだ」
囮作戦がバレてる?
ううん、だってそれを思いついて披露したのは、ついさっきだもの。
まさか、その前から私の行動把握されてる?
桜木さんに会いに行ったこととか全部?
例えば私のスマホに、追跡アプリが入っているとか……
「君は今、自分がどれほど危険な立場にいるか、まるでわかっていない」
尖った声が、私を現実へ引き戻した。
隣へ視線をやると、彼はその眼差しをきつくして、拳を窓へ押し当てている。
「これはフィクションじゃないんだ」
「そんなことわかってます。でも娘が父親の無念を晴らしたいと思って、何が悪いんですか? クロードさんこそ、余計な口出しは止めてください」
お得意のポーカーフェイスをもっと崩してやりたくてわざとらしくツンと顎を上げると、彼は予想外の反撃に怯んだようだ。
「俺は、あの事件に責任が――」
「じゃあやっぱり15年前の事件は、リーズグループとクロードさんの関係が発端なんですね? 犯人はグループの内部にいて、だからクロードさんは、犯人を捜すためにリーズグループに入ったんでしょう?」
自分の推理を補完しようと畳みかける私に、もう彼は苛立ちを隠そうともせず頬を歪めて舌打ちした。
「何も答える気はない。君がこれ以上関わることは許さない。これは俺が解決すべき問題で、茉莉花には関係ないことだ」
関係ないわけないじゃない!
家族を殺されたのよ!?
叫びたいのをなんとか堪えた。
彼が私を危険に巻き込むまいと、わざと突き放すような言い方をしてることはわかっていたから。
わかりにくいけど、これが彼の優しさなんだ。
ほんとにほんとに、優しい人なんだ。
きっと昔から。たった一人でいろんなものを背負って……
――まだ若い男の子にとっては、さぞかし酷なことだったと思うよ。
――なのに、全然こっちを詰ることもせずに、まーちゃんは大丈夫だったかって、そのことばっかり心配してくれてねぇ。
けどね。
理解はできても、私が受け入れるかどうかはまた別の話。
ここまで来て引き下がる気は、全くないもの。
深く考えるより早く、私は行動に出ていた。
彼の目の前で、たった今もらった離婚協議書、そして旅程表をまとめてビリビリっと真っ二つに破ったのだ。