Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
私は今、新宿にある中堅どころの商社で働いている。
短大卒業後、得意の英語を買われて営業事務として採用されて、これで生活が安定するってホッとしたのに。
まさか数年後に、退職まで頭を過る事態になるなんて思わなかった。
――君の言葉なんて、誰が信用する?
嘲りを含んだ、男性にしては高めの声。
思い出すだけでゾッと冷たい何かが背中を這う気がする。
営業一課課長、高岡啓史。
上司である彼から頼ってもらえて、最初はただ嬉しいだけだった。
残業するのも苦じゃなかった。
褒められると、もっと頑張ろうって思えた。
ところが……いつの頃からか、彼の口調も態度も、やたら馴れ馴れしいものに変わってること、距離が近すぎることに気づく。
それでも、こんな平凡で色気皆無の私相手に、まさかね、なんて最初は笑ってた。
けど肩を抱かれ、腰を撫でられ、膝に手を置かれ……接触度合いは次第にエスカレート。さすがにこれはセクハラっていう部類なんじゃないかと思い始めた頃。
2人きりで残業中に抱きつかれて、押し倒されそうになって。
びっくりしてつき飛ばして逃げた。
もちろん翌日、すぐに上の人へ訴えようとしたけれど……
――ちょっとした冗談じゃないか。そんなこともわからないなんて。男の経験なさすぎるんじゃないの?
――だいたいね、君の言葉なんて、誰が信用する? 逆にこっちが名誉棄損で訴えようか。君一人この会社から追い出すことくらい、簡単なんだよ?
クビをチラつかされて、彼の奥さんが重役の娘であることを思い出し、私の勢いは瞬く間に削がれた。
証拠の音声や画像があるわけじゃない。何を言ってもこっちが悪者にされる、そんな未来がはっきり見えてしまったから。