Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
再び、彼女との距離を測りかねる日々が戻ってきた。
いや、以前より状況は深刻だ。
今や俺は、彼女の唇の甘さを知ってしまっている。
深くキスした時の蕩けた顔の破壊力も。
そんな状態で、意識するなと言う方が無理だろう。
同じ部屋にいればどうしたって視線は奪われてしまうし、蜜に誘われる蝶のように距離を縮めてその声を聞きたいと願ってしまう。
いい加減、同じベッドで寝るのは止めるべきだろう。
もう悪夢は見ていないようだし、俺の身体も理性もギリギリだ。
そんなことを考えながらもなかなか実行に移せずにいるうちに、1年の中で最も大事な日が近づいてきた。茉莉花の誕生日だ。
彼女にはもうご両親がいない。
寂しく過ごすことのないよう、その日だけは俺が2人の分まで共に祝うのは当然だ。俺たちは家族なのだから――なんて、言い訳しつつ迎えた当日。
俺が選んだドレスを纏った彼女は女神のように美しく、ダメだと思いながらもベッドへ引きずり込んでそのドレスを脱がせていく妄想が止まらなかった。
もちろん本人には絶対言えないが。
ただ表面上はあくまで紳士的に、エスコートできたと思う。
彼女も可愛い笑顔をたくさん見せてくれ、誕生日を楽しんでくれたようだ。
男女の触れ合いこそないものの、俺の心は幸福に満たされていた――ユキからあの電話がかかってくるまでは。
――クロード! 大変よ、富田がいなくなったの!
時間をかけて富田の説得を続け、ようやく日本へ帰国させたところだった。
あとは、あいつが母親との対面を果たしたのち我々と落ち合い、警察へ向かう。
Xについても、正体は不明だが、知っていることはすべて話してくれることになっていた。本当に、あと一歩のところだったのに。
――いなくなった? どういうことだ? 母親に会いに行ったんじゃないのか。
――行ってないわ。確かめた。ホテルにも帰ってないの。
まさか寝返ったんだろうか。
嫌な汗が滲んだが、茉莉花に気取られるわけにはいかない。
急な仕事だと嘘をつき、途中で退席することを詫びる。
一生懸命笑顔を作って見送ってくれる彼女に後ろ髪引かれながら、なんとか想いを振り切ってその場を後にした。
富田の行方は翌朝判明する。
遺体が発見されたのだ。