Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~

茉莉花ははにかんで笑い、いそいそと俺の傍へサイドテーブルと椅子を移動し、自分の食事を持ってくる。

「じゃあ、いただきます」
「いただきます」

一緒に手を合わせて言い、食べ始める。
これが最近の、俺たちのルーティーンだ。

自分で食べられるからと介助を断った時、それはそれはしゅんと寂しそうな顔をさせてしまったので、慌てて妥協案をひねり出したのだ。
一緒に食べよう、と。

このアイディアは悪くなかった。
食事を取りながら、彼女からいろんなニュースを聞くことができたから。

例えば、逮捕された香坂が逃亡を図った末に投身自殺したこと、おばあ様が入院する病院スタッフが汚職で捕まったこと、おばあ様の家の近所の納屋から高性能の爆弾が発見されたこと、上海の(ワン)家が『香坂なる犯罪者と当家とは無関係である』との声明を出したこと……

最初の頃は、茉莉花ナースが厳しくてインターネットにも触れさせてくれなかったからな。彼女が貴重な情報源だった。

「あ、そういえば病院の入口の桜並木、そろそろ蕾が開きそうなんです。今度一緒に見に行きましょう?」
「桜か……もう春なんだな」

大きな窓から差し込む長閑な日差しに目を細めつつ言う。
茉莉花と一緒に眺める桜は、それはそれは美しいだろう。

穏やかに流れるこの時間が、ずっと続けばいいのに。
ずっとこのまま、彼女を独占できたら……。

「あ、それよりどこかお花見に行きますか? 短時間のドライブくらいだったら、許可出してもいいって学くんが」

学くん――ブツッと電源を切ったかのように、幸福な空気が霧散した、ような気がした。

あぁ何を勘違いしてるんだ。
彼女は俺のものじゃない。
彼女は、あいつの……

「どうしました? キズ、痛みます?」

焦った様に覗き込んでくる彼女を引き寄せて口づけたくなるのを、かろうじて堪え、視線を逸らした。

「いや、大丈夫。桜が散るころには、退院できるかなと考えていただけだ」

「……そっか。早く退院、したいですもんね」
「あぁ……そうだな」

なんとなく重たくなってしまった空気の中で、2人とも黙々と箸を進めた。

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