Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
レッスンを終えたばかりらしい一人の女性にすれ違いざま呼ばれ、え、と足が止まった。
私を奥様なんて呼ぶ人は限られてる。
「は、速水さん、こんにちは」
嫌な予感は的中。
爪楊枝が何本乗るのかってくらいの長い睫毛に縁どられた、大きな二重の瞳が私を見つめていた。
まさか速水さんがここに通っていたなんて。
動揺を隠そうと、私はぎくしゃくと口を開いた。
「今日は、お仕事お休みなんですか?」
「えぇ、先日休日出勤がございましたので、代休を。私はいくらでも働けるんですが、『君に辞められては困るから』って、社長がいつも気を配ってくださるんです」
緩く巻いた長い茶髪をかき上げながら、自信をのぞかせて微笑む。
こっちは「そ、そうなんですね」と愛想笑いで躱すしかない。
「奥様は――お友達と体験レッスン、かしら? まさか、ゴルフを始めるおつもりで?」
査定するみたいにジロジロ見つめられて、素人感丸出しの格好が恥ずかしくなってくる。彼女のウェアはもちろん、お高いブランド物なんだろうな。
「えぇ、まぁ……運動音痴なので、どうなるかわかりませんけど」
「まぁ~そうなんですか。奥様ならお時間もたっぷりあるし、きっと上達も早いでしょうねぇ。羨ましいわぁ」
嫌味たっぷりな口調に頬が盛大にひきつったけど、なんとか耐えた。
「予約の時間があるので、失礼します」
なんとかそれだけ口にすると、香ちゃんに行こうと目配せ。
1歩2歩と足早に進みかけたところで――ガッと、赤い指先が私の腕に食い込んだ。
「必死ですね」
顔を寄せて、密やかな笑いと共に囁かれる。