Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「え?」
「旦那様の趣味に合わせようと頑張ってるんでしょ? そりゃそうですよね、あんな優良物件に捨てられたら、優雅な専業主婦生活も終わり。何も残りませんものねぇ」
「なっ……私は別にっ」
「必死な女って、イタイだけですけど。まぁせいぜい頑張ってくださいな」
真っ赤な唇が嫣然と綻ぶ。
余裕たっぷりの微笑みを見せつけられて、私は拳を白くなるほど握り締めた。
口の端まで出かかった言葉は、結局言えなかった。
趣味を合わせたいと思ったことも、必死になってることも、事実だったから。
軽く頭だけ下げて、数メートル先で心配そうに振り返ってる香ちゃんに追いつく。
「茉莉花、大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫」
極力口角を上げて、なんでもないフリ。
……が。実は全然大丈夫じゃなくて。
その後のコンディションは散々だった。
担当してくれたコーチは優しそうな若い男性で(塩顔イケメンだと香ちゃんはベタ褒めしてたが)、グリップの握り方からとても丁寧に教えてくれたし、リアルな映像付きシミュレーションを使ったレッスンはゲームみたいで面白かったし……
でも結局、最後まで集中できなかった。
速水さんの言葉が、頭から離れなくて。
当然ながら、私の不調を香ちゃんが見逃すはずはない。
レッスン後、引きずられるように駅ビル内のカフェへ連れていかれる。
そして気分をアゲるには自分を甘やかすことだ、と謎に力説されたおかげで、ウェディングフォトのために断っていたケーキを久しぶりに注文してしまったのだった。