三十路アイドルはじめます

15.年下は本当に恋愛対象外なんだ。

 あれから1ヶ月、私達『フルーティーズ』は必死に練習を重ねた。

 ルナさんの作ってくれた曲は振り付けに調和された素敵なもので、その曲に3人娘が知恵を絞りながら歌詞をつけた。

「『フルーティーズは泣かない』マジで良いっすわ。私らの共同制作やね。ルナ様も今晩は来てくれるんですよね」
 3人娘も詩を書くのは初めてだったようで悪戦苦闘していたが、夢に向かって歯を食いしばり頑張る自分たちの決意表明のような詩を書いてくれた。

「うん、見にくるって言ってたよ」

 ルナさんは1曲だけではなく12曲も曲を書いてくれた。
 私はそんな彼女を天才だと思うが、彼女は自分には何にも才能がないと謙遜している。

 『フルーティーズは泣かない』はその中で一番情熱がこもった1曲だ。
 そしてスポーツ番組ばかり見ている私は知らなかったが、『フルーティーズ』は新曲を音楽番組で発表できるレベルには有名なアイドルらしい。

 今日はルナさんの作った新曲の初披露の日だ。
 曲はインストラメンタルで流して、『フルーティーズ』が歌って踊る。
 生放送ということで私は緊張しているが、3人娘はワクワクしているようだった。

 この1ヶ月で、私はルナさんの印象が180度変わった。
 彼女がラララ製薬に突撃してきた時は、ただ若いだけの思慮浅い子に見えた。
 人の都合など考えず、とにかく大暴れしたかっただけの子だと思った。

 それは私の勘違いだった。
 関わっていくと、彼女はとても上品で控えめなお淑やかな子だった。

 そんな彼女をあそこまで追い込んでしまったことに責任を感じた。
 あの日より前の1ヶ月は雅紀は私の部屋に入り浸っていた。

 だからこそ私は勝手に雅紀は私との結婚を考えていると勘違いしてしまった。
 彼女からしたら新婚であり、かつ妊娠中で不安定な時だ。
 私との関係に気がつき、どんな気持ちであの日会社に乗り込んできたのか⋯⋯。

 ルナさんはマグマのように燃えるような内なる感情を秘めた子だ。
 彼女の作った曲を聴いた時魂が揺さぶられ、自然と涙が溢れた。
 彼女の表に出さない強い思いと情熱がぶつけられるのが音楽だ。

 コンテストとかに出たことがないのかと聞いたら、つい最近までは50キロ太ってて引きこもりがちだったらしい。

 でも、どうしても演奏家として皆の前で表現したくて50キロのダイエットに成功したと言っていた。

 50キロ痩せたら梨田きらりは影も形もなくなってしまう。
 そんな人間1人分もの体重を落としてまで表現したかった熱を秘めているのが柏崎ルナという天才だ。

 彼女は輝かしい才能があるのに、恐ろしく自己評価が低い子だった。
 私を含めた『フルーティーズ』のメンバーが彼女を天才だと讃えても全く喜んでいなかった。

 自分は音大もギリギリで受からせてもらっただろう凡人だとも言っていた。
 彼女の生演奏を1度聴いた『フルーティーズ』のメンバーも一瞬で彼女に魅せられた。
 私は、ルナさんの才能を広める為にも今日のパフォーマンスを成功させたいと思った。

 
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