三十路アイドルはじめます

22.きらり、好きだ。(林太郎視点)

 為末林太郎、25歳。
 俺は見た目の良い女が嫌いだ。

 顔が良い女というのは、それだけで自分に価値があると勘違いする。
 その勘違いをさせているのはチヤホヤする男のせいだが、その価値観は年をとっても続くのが痛いところだ。

 俺の母親が元モデルで、父と結婚した頃は絶世の美女と言われていた。
 今、アラフィフになった母は自分の衰えが許せず整形依存症だ。

 美しさの基準もおかしくなったのか、顔がヒアルロン酸の打ち過ぎでパンパンになっている。
 はっきり言って、美しいどころか不自然過ぎて化け物に見える時さえある。

 食事は朝一食以外はサプリメントで、朝の一食も体内の糖度が上がらないように極端な砂糖抜き。そして、炭水化物は一切食べない。

 彼女の中ではルックスが全てで、俺に対しても自分と似て美しく生まれたことに感謝しろと毎日のように言ってくる。
 外見こそが全てと思っていて、まともな会話ができないので父の心も離れていった。

 兄が結婚したいと言ってきた相手を連れてきた時は、その女性の地味なルックスに中身で選んだと感心した。
 しかし、母は兄の地味な彼女に嫌味を言い続け、結婚後もイジメ倒した。

 兄の奥さんの子を、「嫁に似て不細工で可哀想」と言った時に兄もキレて、母と距離を取るようになった。
 嫁さんと子供の心を守る為に、為末の家から距離を取りシンガポールに移住してしまった。

 そんな訳で、アメリカで自由にやっていた次男の俺は急遽日本に呼び出され父の跡を継ぐことになった。
 日本には中学の時までいたが、飛び級が認められていなかったりあまり面白いと思えなかった。

 日本にいた時はルックスが良いからか、周りにいたほとんどの女子から告白された。
 俺は全く中身を見ようとしないで、俺の見た目や家柄しか見ない女に辟易した。

 梨田きらりを初めて見たときは、あまりの美人が雑居ビルの予備校の受付に座っていて合成写真かと思った。
 初対面で俺は「経験豊富そうだから、学生を誑かすな」と失礼なことを言ってしまった。
 彼女のことを、母のように全ての男は美しい自分に気があると思っているような女だと決めつけてしまった。

 しかし、彼女は母とは真逆の女だった。

 彼女はポテトをパクパク食べて、趣味は筋トレとスポーツ観戦だと言っていた。
 着飾らなく自然体で話す彼女との会話は楽しく、俺はどんどん彼女に惹かれていった。

 そして、アイドルの子たちのプロデュースも真剣にやっていて情が深い子だと思った。
 俺は1時間くらいで梨田きらりに落ちてしまった。

 
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