三十路アイドルはじめます

29.独立しても後ろ盾がないと売れないから。

 稽古室に行くと、既に3人娘が揃っていた。

 今日は休日だから学校も休みだ。

「友永社長は今、留守ですよ。それより、昨日あれからイケメン社長とはどうなったんですか?」
 りんごが年頃の女の子らしく興味津々に尋ねてくる。

「振られたよ。それよりも、新曲の振り付けを考えてきたから練習しよう」
 社長が不在で拍子抜けしたが、あと11ヶ月で武道館を満席に出来る程のグループに『フルーティーズ』を育てねばならない。

 11ヶ月全力疾走するくらい努力しないと、とてもじゃないけど無理だろう。

 現状の『フルーティーズ』はショッピングモールなど無料でのイベントでは、人が溢れるくらい集めれる。
 しかし、有料のコンサートは小さな会場を満席にするのがやっとらしい。
(無料なら見てみたいけど、お金払ってまでは見たくないってことだよね⋯⋯)

「振られたって、梨子姉さんみないな超美人でも振られることがあるんですか?」
 苺の言葉に気持ちが落ち込んだ。

 私は見た目だけで中身がすっからかんということだろうか。
 14年付き合った彼氏にボロ雑巾のように振られ、気になりはじめた林太郎にも本質を知られたら振られた。

「私は振られてばっかだよ。今は恋愛より、『フルーティーズ』だから! 来年の9月9日に武道館コンサート決定したよ」

「武道館ってマジですか? ママの夢の舞台なんですけど」
「マジだよ。だから、頑張ろうね」

 桃香は相変わらず自分の母親の夢を代わりに叶えようとしているようだ。
 彼女は母親から枕営業をしてでも上に行くように言われていると言っていた。

 母親のためなら彼女は何でもやってしまいそうなところがある。
 そんなことをすればきっと後悔するから、私が止めてあげなければならない。


 5時間以上、稽古場を貸し切って練習した。

「『フルーティーズ』いつまでやってるのよ。対して売れてもない癖に! うちらここ使いたいんだけど」
 『フルーティーズ』よりもお姉さんで、よくお下がりの曲をおろしていた『ベジタブルズ』の子たちが顔を出す。

「お待たせしました。どうぞ」

 私たちが稽古室から出ようとすると、すれ違いざまに「おばさん消えろ」と言われた。
 このようなことは日常茶飯事で、私自身が彼女たちから見えればおばさんだと1番わかっている。
 彼女たちは私が傷つけたくて言っているのだろうが、そのような子供の言葉に傷つく程柔ではない。

 
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