月ノ蝶、赤縄を結ぶ

「ん?どしたぁ?見てく?」

「うん」



 私の目に止まったのは紳士小物売り場。

 怪訝そうな顔をした天ちゃんも私に続き入店する。

 スーツやネクタイのコーナーを素通りし、とある棚の前に立ち、先程魅入った物を手に取った。



「紅用?」

「そう」



 私が取ったのは、真黒い布に銀色の糸でBのロゴが刺繍されているハンカチ。

 冬の新作らしく、目立つように置かれていた。Bのロゴはそのブランドの頭文字。

 偶然が重なっただけだけど、紅くんの色とイニシャルが一致している。

 ここまで来たら最早紅くんのために作られたとしか思えない。


 私が7歳のときにあげたハンカチを未だに大事に持っていることを知って以来、新しいのをあげたいなって思ってたんだよね。

 ピッタリのものが見つかって良かった良かった。


 天ちゃんは満足そうにハンカチを抱く私を「若いっていいなぁ〜」とぼやきながら見つめていた。

 天ちゃんもまだに22歳のはずなんだけど、こういうときはお姉さんぶる。

 かと思えば「あ、ゲーセンだ。プリ撮ろ〜」と足早に歩いていった。
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