悠久の絃 2
「――ちゃん、絃ちゃーん、、わかる?」


「、っわ、すみません」


「大丈夫だよ。何か悩みごと?話せる?」



麻河先生の診察室は夜星先生と違って、先生との間にデスクがある。まるで教室で担任の先生と話しているみたいな。

麻河先生はメモをとるためのバインダーとペンをデスクに置いて、どうぞ、と言うように手のひらを私に向けた。

「……」


「ふふっ、何か言いづらいことかな。
そういえば、今日までテストだったんだよね?どう?結構良さそう?」


「…はい、」


「すごいねぇ。入院してる間も勉強してるって聞いてたからさ。大事な試験で自信を持てるってすごいことだよ。」


「ありがとう、ございます…」



「今日はなんのお話しようか〜。もう夏休みだからなぁ……予定はなにか決まってるの?」


「まぁ、、はい。花火行ったり、お祭り、とか。律先生はそろそろ帰っちゃうから、悠と行くんです」


「いいな〜!先生ね、毎年花火みたいなって思ってるのに毎年仕事が遅くなっちゃったり寝落ちしちゃったりするんだ。今年は見てみたいんだけどね」


「すごく、綺麗に見える場所があって。悠と行こうって話してるんです」


「そうなんだね〜悠くんと楽しんでおいで。」


「でも、夏休みの終わり頃なので。それまでに頑張って宿題終わらせたいんです」


「……ちょっと提案なんだけど、悠くんや夜星先生がいる時だけ、冒険してみようか?」



「…ぼう、けん、?」


「うん。絃ちゃんの言う、お兄ちゃんたちを見つける冒険。」




―いい?前提として、僕はいつも言ってるけど、焦りなさいってことじゃないからね。
お兄ちゃんたちを見つける冒険。夏休みの間してみない?
今までの絃ちゃんの話を聞いている限り、お兄ちゃんたちはこの病院にいるんだよね?
僕はね、そのお兄ちゃんたちは絃ちゃんをずっと支えてくれる人なんじゃないかなって思ってる。だから、絃ちゃんが大人になるまでに、何かしらで一人前になるまでに、見つけた方が、絃ちゃんの気持ち的に楽かなって思ってるんだ。


「……でも、、」


「でも、見つからないかもしれない?今まで探してたけどわからないから、見つけられない?」


「……はい。」


「見つからなかったら、それはそれでいいんだよ。ある日突然フラッシュバックするのかもしれないし、あの人かな?って見つけて聞いてみてもいいし。
そういうのを含めて、僕は冒険することを提案してるんだ。どうかな?」


「してみたいです……けど、お兄ちゃんたち、って、見つけてもいいのかな、って」


「それは、どうして?」


「だって、あの時のお兄ちゃんたちだよ!って出てきてくれたら、それが一番早いじゃないですか。でも、そうしないってことは見つかりたくないのかなって。あ、、、でもっ……」


「うん?いいんだよ。頭の中で考えるんじゃなくて声に出してみな。話が突飛してもいいし、キレイな言葉じゃなくてもいい。いつもどおりに話してごらん」


「……去年のバースデーカード、お兄ちゃんたちがゆっくり思い出してねって書いてて。だからやっぱり見つけてほしいのかな。

でも、なんで出てきてくれないんだろ。」




「…………わたしが、パニックになっちゃうから、かな?」



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