愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「――円香、お前、初めてなんだよな?」
「……は、はい……」
「怖いか?」
「……少し……怖い、です……」

 いつしかソファーの上に寝かされていた円香は、伊織に見下ろされながら問い掛けられ、その質問に息を整えながら答えていく。

「俺は嫌がる女を無理矢理抱く趣味はねぇんだ。止めるなら今のうちだ」
「……嫌、じゃ……ない、です……ただ、」
「何だよ?」
「……優しく、して欲しい……です……」

 今一度円香の本心を確認した伊織は彼女のその言葉に、

「そうだな、初めては優しくしてやる。一生忘れられねぇくらい、心も身体も溶かしてやるよ――」

 悪戯な笑みを浮かべた伊織は円香の唇に優しく触れるようなキスをすると、耳朶に指を這わせ、その指は首筋、鎖骨へと滑っていき、慣れた手つきでブラジャーを外していく。

「……っ、ふしみ、さん……」
「伊織って呼べよ、円香」
「……い、おり……さん……っあ!」

 名前で呼ぶよう言われ、恥ずかしがりつつも名前を口にした円香の首筋を甘噛みする伊織。

 露わになった胸にも指先が当てられ、(くすぐ)ったさと快楽が円香の身体を支配していく。

(何、これ……頭も身体も、変になりそう……)

 初めての感覚に頭がボーっとして何も考えられなくなる円香は、伊織に触れられるたび自分の身体が自分の物では無くなる気がして怖いはずなのに、彼になら全てを任せられるという信頼感から身体を委ねていた。

 何度となく訪れる快楽に身体を揺らし嬌声(きょうせい)を上げる円香に、伊織は興奮していた。

(女なんてこれまで数え切れない程抱いてきたけど、こんな感覚は、初めてだ……)

 任務の為に女を抱く事はあっても、相手を悦ばせる事など考えて抱いた経験はなかった伊織。

 けれど円香にだけは、悦ばせたい、自分に溺れさせたいという思いが生まれ、伊織自身も行為を楽しんでいた。

 そして、

「円香、力を抜け」
「……っん!」

 身体にいくつもの赤い印を付けられ、全てを溶かされた円香。

 未知の行為に怖さを(いだ)きつつも、耳元で囁かれ、髪を優しく撫でられたお陰か痛みはほんの一瞬ですぐに快楽へと変わっていき――円香の初めては伊織によって奪われ、人生で一番、満たされた瞬間となったのだった。
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