愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 残された二人の間には、気まずい空気が流れている。

(伊織さん……怒ってる……話しかけない方が、いいのかな)

 一向に話しかけて来る気配の無い伊織を前に、しゅんと落ち込み項垂れた円香がベッドから降りようと動き出すと、

「…………お前さ、本当馬鹿だよな」

 そう静かに、淡々と口にしながら伊織は円香の方へ一歩ずつ近付いて行き、

「本当馬鹿だよ、お前。相手が雷じゃ無かったら、無事じゃ済まねぇんだぞ? 無防備過ぎるのも大概にしろよな」

 ベッドの上に居る円香の身体を、包み込むように優しく抱きしめた。

「い……おり、さん……」

 抱きしめられたその温もりが温かくて、円香はこれが夢じゃないと確信して安堵すると同時に、

「う……っ、ひっく……いおり、さん……わたし……っ」

 色々な感情がごちゃ混ぜになった円香は子供のように泣き出してしまう。

「泣くなよ……悪かったよ」
「ううん、わた……っ、わたし、が……っ」
「違ぇよ、お前は悪くねぇんだよ。何も悪くねぇ。全部、俺が悪いんだ」
「……伊織……さん……」

 そもそも、何でこんな事になってしまったのだろうと円香は考えたけれど、そんな事はもうどうでも良かった。

 今目の前に伊織が居る。その事が一番重要で、全てなのだから。

 それから暫くして、

「とりあえず、出るぞ」

 部屋を出ようという伊織の提案に、落ち着きを取り戻した円香が小さく頷いて共に部屋を後にする。

 どこへ向かうのだろうと思いながら伊織に付いていく円香だったのだけど、エレベーターに乗ると何故か伊織が客室最上階のボタンを押した事を不思議に思い、首を傾げる。

「伊織さん……何処へ向かうんですか?」
「部屋に決まってんだろ?」
「え? それならさっきの部屋でも……」
「あそこは雷が借りてる部屋だぜ? 何するにしても落ち着かねぇよ」
「そ、そうなんですか……?」
「カメラとか仕掛けてあるかもしれねーぞ? それでもいいのか?」
「え!? そ、それはちょっと……嫌、です」
「冗談だよ。ま、わざわざ部屋を取ったのはお前へのちょっとしたプレゼントってとこだよ」

 エレベーターを降りて部屋の前にやって来た二人。

 伊織はそう言いながら鍵を開けてドアを開けて円香を部屋へ招き入れると、

「うわぁー! すごい!」

 部屋に入った円香は感嘆の声を上げる。

 ここは最上階の特別室で、部屋の大きな窓から街の景色や星空が一望出来る空間になっていた。
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