愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 腕を拘束され、身体の上に跨っている雷斗の重みから逃れる事が出来ない円香に為す術はなく、首だけを振って必死に抵抗する。

「俺はね、円香ちゃんの事、良いなぁって密かに想ってたんだよ? 伊織の代わりに、俺が愛してあげる。だから、泣かないでよ」
「……っ」

 雷斗が優しく言葉を掛けても、指で涙を掬ってくれても、その言葉も想いも円香には届かない。

 円香は心の中で、ただひたすら祈り続けていた。

(いや……怖い……、助けて……助けて、伊織さん!!)

 来ないと分かっているけれど、今一番会いたい、助けて欲しいと願う人を思い浮かべながら心の中で叫び続けていた。

「さ、もう泣くのは止めようよ、これじゃあ俺が酷い人みたいじゃん?」
「…………っ」
「俺は泣いてる女を抱きたい訳じゃない。酷くしないから」
「ひ、酷い人です……貴方は…………すごく、酷い人……」

 泣くだけではどうにもならない、自分で何とかしなければならないという思いが円香を変え、震える声で、キッと雷斗を睨みつけながら円香は言葉を続けた。

「こんな事されても……貴方の事なんて……好きに、ならない……」
「そうかな? そんなの、やってみないと分からないよ? 伊織なんかよりも気持ちよくしてあげれる自信だってあるし、きっと円香ちゃんも俺に溺れるよ」
「そ、そんなの、絶対にならない! 私が好きなのは、伊織さんだけ…………伊織さんしか、いないっ!!」

 挑発とも言える雷斗の言葉に心の底から怒りを覚えた円香は、自分でも驚く程に大きな声で反論した。

 そんな円香に雷斗は、

「――だってさ、いい加減入って来たらどうなんだよ。盗み聞きは趣味が悪いぜ?」

 円香と同じくらい大きな声で、誰かに向けてそう言い放った。

 突如誰かに向けられた雷斗の言葉に、ただ驚く円香。

 一体誰に向かって言った言葉なのだろうと思いながらドアの方へ視線を移すと、

「――雷、お前やり過ぎだ」

 一見落ち着いているように見えるも、ぞっとするような鋭い視線を向けている伊織の姿がそこにはあった。

「伊織……さん……?」

 助けに来るはずがない、そう思っていた伊織が突然現れて、ますます思考が追いつかない円香。

「ごめんね円香ちゃん、酷い事して。因みにこれ、全部演技だから許してね」

 更に、つい今しがたまで最低な男だと思っていた雷斗が急に穏やかな表情に変えると、円香から離れて今までの事は全て演技だったと謝罪したのだ。

「え……? 演技……? どう、して?」

 伊織の登場に雷斗の演技、訳の分からない事態に頭を悩ませる円香が身体を起こしながら問い掛ける。

「俺としては、互いを想い合ってる二人があんな別れ方じゃあんまりだと思ったからさ……ちょっと、伊織を試す為に演技をね。余計なお世話……だったかな?」

 あっけらかんと言い放つ雷斗に伊織の方は心底面白く無さそうな表情をしているけれど、円香の方は知らなかったとは言え、雷斗の事を最低な人間だと思った自分が情けないと落ち込んだ。

「ま、ひとまず邪魔者は消えるとするよ。それじゃあ、ごゆっくり~」

 未だ伊織と円香が口をきいてない事に気づいた雷斗は自分が居ると話しづらいだろうと気を利かせて部屋を出て行った。
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