《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
「ママ、どーぞ!」

 百瀬くんと一緒に紅茶を淹れてくれた神楽がゆっくりとマグカップを運んで来て私に手渡してくれる。

「ありがとう」

 神楽が席に着いたタイミングで一口飲むと、「おいしい?」と聞いてくる。

「うん、すごーく美味しい」
「えへへ」

『美味しい』と答えると、神楽は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「はい、亜夢」

 私たちのやり取りを嬉しそうに見つめていた百瀬くんは、切り分けた三人分のケーキをトレーに乗せて運んで来ると席に着いた。

 私のは二人よりも少し大きめで、ちょっとお腹はいっぱいだったけれど、嬉しくて気付けば全部完食出来た。

 それから百瀬くんと神楽がお風呂のお湯を入れてくれて、一人でゆっくり入るよう言われた私は幸せに浸りながら温まっていた。

 そして、私がお風呂から出てくると、

「ママ、ここにすわって」

 神楽にソファーへ座るよう促された私が言われた通りにそこへ座ると、

「俺たちはお風呂に入ってくるから、亜夢はこれでも飲んでゆっくりしててね」

 そう言いながら百瀬くんがハーブティーの入ったマグカップを持って来て手渡してくれた。

「ありがとう」

 何から何までやってもらって申し訳ないくらいだけど、二人の気遣いと優しさが本当に嬉しかった。

 二人がお風呂に入っている間、私はソファーに座ってハーブティーを飲みながら、久しぶりに神楽が産まれた頃のアルバムを見返していた。

 男の子だと分かった時、きっと百瀬くんに似るんだろうなと思ってはいたけど、成長するにつれて神楽は本当に百瀬くんそっくりな男の子になっていると日々実感していた。

(今はママ大好きって言ってくれるけど、そのうち好きな子が出来たら、その子の事を大切に想うようになるんだろうなぁ……)

 当たり前の事だけど、それはそれで少し淋しい感じがするけど、神楽の年齢で既に『好きな子』がいたりする子もいるので、うちはまだ遅い方なのかなと思ったり。

 ホワイトデーも、好きな子が出来たらその子に何をあげるとか一生懸命考えるようになるんだと思ったら、その時私はそれを微笑ましく思うのか、淋しく思うのか、今はまだ想像がつかなかった。
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