《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
本当の気持ちを聞かせて欲しいから
 少し前、幼稚園からスーパーまでの途中にペットショップがオープンした。


 見に行きたいとせがまれて覗いただけだったのだけど、そこで見た一匹の子犬に一目惚れをしてしまったらしい神楽。


 それからというもの、幼稚園の帰りには決まってそのペットショップに立ち寄っては、チワワの子犬を可愛いと言いながら暫く見つめていた。


 それを百瀬くんに話すと、「そんなに気に入ってるなら家で飼おうか」なんて言っていて、神楽にもそれを伝えてみたのだけど、何故か「いい」「いらない」と断られてしまった。


 気に入っているけど、あくまでも見ているだけで満足なのかなと思っていたのだけど、ある日偶然、神楽がお友達とお喋りしているところに遭遇してしまう。

「ねぇ、ケンタくんのおうちにはワンちゃんいるでしょ? おせわ、たいへん?」
「うん。でも、ママがやってくれるからへーき! オレはさんぽに行ったり、ごはんあげたりとかたまにするよ!」
「そっか……やっぱりたいへんなんだ」
「カグラのいえも犬かうの?」
「ううん。パパやママはかってもいいっていってたけど、オレがいらないっていった」
「ふーん? でも、カグラ、犬ほしいっていってたじゃん? かってもらえばいーのに」

 そんな会話から神楽がなぜ犬を飼いたがらないのかよく分からなかったのだけど、それを百瀬くんに伝えた日の夜、神楽と二人でお風呂に入って理由を聞いてくれた事で分かる事に。


「え? 神楽がそんな事を?」
「そうなんだよ。犬は欲しいけど、友達から犬を飼う大変さを聞いて亜夢に負担が掛かることを心配してるみたいなんだ」

 どうやら神楽は犬を飼う事で自分が面倒を見られない時に私に負担が掛かる事を心配して『いらない』と言っているようだった。

「そんな……。私なら大丈夫なのに……」
「神楽は亜夢のお腹に赤ちゃんがいるから負担を掛けたく無いんだよ。優しいよね、本当」
「うん……」

 優しさや気遣いは嬉しいけれど、普段我侭を言わないからこそ、せめて欲しいものやしたい事くらいは神楽の希望を叶えてあげたい。

「私なら大丈夫だからって神楽に伝えてあの子犬、お迎えしようよ。ね?」

 そんな私の提案に百瀬くんは、

「ならさ、俺に考えがあるんだ。ただ、それをする上で神楽を少し悲しませる事になるけど、神楽の気持ちを確かめるチャンスだと思うから――」

 神楽の気持ちを確かめる為にある作戦を実行しようと私に話を持ち掛けてきた。
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