《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
 百瀬くんの言っていた作戦を実行する当日。

 春休みになっても日課になっていたペットショップ訪問をする為に今日もいつも通り神楽と二人、散歩がてら向かって行く。

 神楽が子犬を迎えたくない理由を知ってしまってからというもの、何度それについて話そうとした事か。

 だけど、それをしてしまうと百瀬くんの作戦の弊害になってしまうかもしれないから出来なかった。

 ペットショップに着いていつも通り神楽のお気に入りの子犬が過ごしているショーケースの前に向かうと、子犬の姿が無い。

「あれ? ワンちゃんいない……」

 神楽の表情が曇り、キョロキョロと辺りを見回すも、チワワの子犬は見当たらない。

 それというのも、子犬はお迎えしてくれる家族が見つかったので居なくなってしまったのだ。

「ママ、ワンちゃん……」

 悲しむ神楽を前に胸が締め付けられた私は、子犬が居ないのは何故なのかを説明した。

「ワンちゃんね、お迎えしてくれる家族の元に行ったみたい……」
「え……?」
「だから、もうお店には居ないのよ」

 すると、神楽はすっかり黙ってしまう。

 こんなに落ち込む事はあまり無くて、どう声を掛けるべきか少し悩む。

「……神楽はさ、ワンちゃん、家でお迎えしたかったんだよね?」
「……ううん、」

 悩んだ後、神楽の本当の気持ちを聞こうと問い掛けてみるけど、私の質問に首を横に振った。

 子犬が居なくなってしまって悲しいはずなのに、それでも私を思って本心を口にしない神楽。

「神楽、とりあえず、お家に帰ろうか? ね?」

 いつまでもお店に居ては迷惑になってしまうので、神楽に声を掛けて家に帰る事にした。


 家に着いてもう一度神楽と話をしてみる。

「ねぇ神楽。実はパパから聞いたんだけど……ワンちゃん、ママに負担が掛かるからいらないって言ったんだよね?」
「…………」
「その気持ちは凄く嬉しいよ? でもね、ママは神楽が喜ぶ事が一番嬉しいの。神楽がワンちゃんを欲しかったならきちんと言って欲しかったな」
「……っ」
「神楽は、あのワンちゃんをお迎えしたかったんだよね?」

 百瀬くんから聞いたと伝えた上で、神楽の本当の気持ちを話して欲しいとお願いすると、

「……うっ、……ひっく……ほんとは、ワンちゃん……オレがおむかえしたかったぁ……っ」

 ようやく本当の気持ちを話してくれた。
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