隣の席の●し屋くんと、世界一尊い恋をする。
 八歳になったある日。
 俺は生まれて初めて盗みを働いた。
 食べ物を切らして三日目の夕方のことだった。

 そのころになると、俺と兄は銀髪にエメラルドグリーンの瞳が珍しいからか、よく「美しい兄弟だ」と言われるようになり、汚い身なりでも自分の容姿がそれなりだということに気が付いていた。
 だから貴族の女と目があったとき、〝いける〟と確信した。
 胸元のリボンがずれていますよ、と笑顔で直してあげるふりをして、そっとブローチを盗んだのだ。
 貴族の女は満足そうに頬を赤らめて去っていくんだから、おかしくて仕方なかった。
 それを換金したらなんとまぁ、食料三日分の儲け。
 味を占めた俺は、そういうスキルを極めていった。
 罪悪感? そんなものはまったくなかった。 金持ちから少しばかりおこぼれを貰ってるだけなんだから。
 
 でも、兄貴は違った。

「ルーカス、ほら。 少しは食べないと」

 今日も店先から盗んだものを持って帰った俺を不服そうに見て、ほんのちょっと食べるだけ。

「よくないよ。ヨルゴ。 こういうことはもうやめよう」

「しょうがないよ、生きるためなんだから。 きれいごとだけで生きられたら苦労しないよ」

「でも……」

「まともな働き口があるならこんなことしなくても済むけど、なんのとりえもない俺たちを雇ってくれるところなんてないじゃないか」

「……」

「みんなやってることだろ。 そんな気に病むことじゃないよ」

「でも……こんな姿、父さん母さんが見たら悲しむよ」

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