追放された調香師の私、ワケあって冷徹な次期魔導士団長のもとで毎日楽しく美味しく働いています。
162.ダンスのお誘い
「かしこまりました。今回の新商品はコルティノーヴィス商団が販売するので、私からご紹介いたします」
貴族らしい美しい笑みを浮かべたヴェーラが新商品について説明すると、ネストレは興味深そうに聞いていた。
「ほう、魔獣の革から作った貴婦人用の手袋に向けた香りを作ったのか」
「ええ、ルアルディ殿が三種類の香りを作ってくれたので、一種類に絞るためにも貴族女性から意見を聞く予定です。そのために舞踏会を開く準備をしております」
「面白そうなことをしているね。母上が興味を持ちそうだが、秘密にしておこう。もしも知ったら、舞踏会に押しかけそうだ。そうなったら、招待された者は母上を気にして意見を控えてしまうだろう」
「お気遣い感謝いたします。もしよろしければ、販売が決まった香りの商品を王妃殿下に献上しても?」
会話の流れで自然と商品の献上を申し出るヴェーラの手腕はさすがだ。
エイレーネ王国では、王族に商品を献上すれば、それが商団の実績となる。
「いいのかい? きっと母上が喜ぶよ。私から話しを通しておこう。もちろん、販売するまでは秘密にしておく」
「ありがとうございます。発売日には朝一番に王城へ届けますね」
畏れ多くも、新しく調香した香りを使った商品を王妃に献上することが決まった。
カルディナーレ香水工房では工房長だったアベラルドが躍起になってもなかなかできなかったことだったのに、あまりにもあっけなく話がまとまったため、先に拍子抜けする。
(こんなにも、流れるように決まるなんて……コルティノーヴィス伯爵ってすごい……!)
じわじわと湧き起こる感動を噛み締めていると、ネストレの視線が自分とシルヴェリオに向けられる。
第二王子の前で気を抜いてしまっていたと反省し、背筋を伸ばして座り直す。
「舞踏会には、シルとルアルディ殿も参加するのかい?」
「ええ、実際の反応を見たいと思っていますので、フレイさんと一緒に参加します」
「……ふむ。それは楽しい舞踏会になりそうだ」
シルヴェリオが答えると、ネストレの銀色の目がきらりと光ったように見えた。
なにか面白いものを見つけたときの猫のような表情だ。
(私はともかく、親友のシルヴェリオ様がいる舞踏会だから楽しくなりそうだと思っているのかな?)
舞踏会に参加するのは初めてのため、どのように楽しくなるのかはわからず、思わず首を傾げる。
すると、ヴェーラがくすりと笑う声が聞こえてきた。
「第二王子殿下のご都合がよろしければ、ぜひご参加いただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「いいのかい? ちょうど周りから、『騎士の仕事ばかりしていないで社交もしろ』と言われていたところなんだ」
あっさりと、ネストレ――王族も舞踏会に参加することが決まってしまった。
王族はどの舞踏会に参加するわけでもないのだと、カルディナーレ香水工房にいた頃に客たちが話していたことを聞いたことがある。
ということは、自分は特別な舞踏会に参加することになってしまったのではないかと思い、身震いした。
(本当に、平民の私も参加していいのかな……?)
明らかに場違いな存在のはずだ、と不安が増してゆく。
あとでシルヴェリオとヴェーラに参加の見直しを相談しようと思っていると、ネストレと視線がかち合う。
「舞踏会だから、ルアルディ殿も踊るのかい?」
「は、はい……。初めてなので、最初はシルヴェリオ様が一緒に踊ってくださります」
その後は、貴族令嬢たちがたまに口にしていた‶壁の花〟とやらになりたい。
貴族ではなく平民の自分は、花ではなく雑草となるのかもしれないが。
「そうか。――では、シルの次にダンスを申し込ませてもらうよ。よろしくね」
「……!」
甘い顔立ちを存分に活かした眩い微笑みを向けてくるネストレを見て、内心ガクガクと震えた。
もしもダンス中に足を踏んでしまったら、不敬罪で捕まってしまうのではないかと思うと、頬が引き攣りそうになる。
(だけど、断るのも不敬になりそうだし……どうしたらいいの……っ!)
とはいえ、答えは既に出ている。
ダンスの誘いを受け、本番で粗相をしないように練習に打ち込むしかない。
何度も繰り返し練習すれば、体が覚えてくれるだろう。調香する時の勘を身につける事と同じだ。
「ぜ、ぜひ、よろしくお願いします」
いつの間にか、とんでもないことになっているような気がする。
舞踏会ではどうなってしまうのだろうかと想像するだけで早くも緊張してしまい、心臓が駆け足になってしまう。
「シルヴェリオ様、ダンスの練習をもう少し増やしたいのですが、お時間をいただいてもいいでしょうか?」
「ああ、何度でも一緒に練習しよう」
シルヴェリオが快諾してくれたため、胸をなでおろす。
しかし、ふとシルヴェリオの深い青色の目が優しく眇められていることに気づいた時、落ち着いたはずの心臓が再び騒がしくなり始める。
(何度も練習できるのはありがたいけれど――練習を重ねるということは、何度もシルヴェリオ様の手や肩に触れるってことだよね!?)
おまけに、ダンスではいつもよりも近い距離でお互いを見つめるのだから、気を抜いたらシルヴェリオを意識していることが顔に出てしまいそうだ。
なにも気にせずにいられたら、好きな人とダンスを踊るために一緒に居られる時間が増えるなんて夢のようだろう。
しかし、身分が違う相手への想いを隠さなければならないのだから、夢に浸ることなんてできない。
どうにかして、隠し通さなければ――。
(舞踏会の日までに、心臓が持たなくなりそう……)
自分で自分の首を絞めてしまったようで、頭を抱えたくなった。
貴族らしい美しい笑みを浮かべたヴェーラが新商品について説明すると、ネストレは興味深そうに聞いていた。
「ほう、魔獣の革から作った貴婦人用の手袋に向けた香りを作ったのか」
「ええ、ルアルディ殿が三種類の香りを作ってくれたので、一種類に絞るためにも貴族女性から意見を聞く予定です。そのために舞踏会を開く準備をしております」
「面白そうなことをしているね。母上が興味を持ちそうだが、秘密にしておこう。もしも知ったら、舞踏会に押しかけそうだ。そうなったら、招待された者は母上を気にして意見を控えてしまうだろう」
「お気遣い感謝いたします。もしよろしければ、販売が決まった香りの商品を王妃殿下に献上しても?」
会話の流れで自然と商品の献上を申し出るヴェーラの手腕はさすがだ。
エイレーネ王国では、王族に商品を献上すれば、それが商団の実績となる。
「いいのかい? きっと母上が喜ぶよ。私から話しを通しておこう。もちろん、販売するまでは秘密にしておく」
「ありがとうございます。発売日には朝一番に王城へ届けますね」
畏れ多くも、新しく調香した香りを使った商品を王妃に献上することが決まった。
カルディナーレ香水工房では工房長だったアベラルドが躍起になってもなかなかできなかったことだったのに、あまりにもあっけなく話がまとまったため、先に拍子抜けする。
(こんなにも、流れるように決まるなんて……コルティノーヴィス伯爵ってすごい……!)
じわじわと湧き起こる感動を噛み締めていると、ネストレの視線が自分とシルヴェリオに向けられる。
第二王子の前で気を抜いてしまっていたと反省し、背筋を伸ばして座り直す。
「舞踏会には、シルとルアルディ殿も参加するのかい?」
「ええ、実際の反応を見たいと思っていますので、フレイさんと一緒に参加します」
「……ふむ。それは楽しい舞踏会になりそうだ」
シルヴェリオが答えると、ネストレの銀色の目がきらりと光ったように見えた。
なにか面白いものを見つけたときの猫のような表情だ。
(私はともかく、親友のシルヴェリオ様がいる舞踏会だから楽しくなりそうだと思っているのかな?)
舞踏会に参加するのは初めてのため、どのように楽しくなるのかはわからず、思わず首を傾げる。
すると、ヴェーラがくすりと笑う声が聞こえてきた。
「第二王子殿下のご都合がよろしければ、ぜひご参加いただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「いいのかい? ちょうど周りから、『騎士の仕事ばかりしていないで社交もしろ』と言われていたところなんだ」
あっさりと、ネストレ――王族も舞踏会に参加することが決まってしまった。
王族はどの舞踏会に参加するわけでもないのだと、カルディナーレ香水工房にいた頃に客たちが話していたことを聞いたことがある。
ということは、自分は特別な舞踏会に参加することになってしまったのではないかと思い、身震いした。
(本当に、平民の私も参加していいのかな……?)
明らかに場違いな存在のはずだ、と不安が増してゆく。
あとでシルヴェリオとヴェーラに参加の見直しを相談しようと思っていると、ネストレと視線がかち合う。
「舞踏会だから、ルアルディ殿も踊るのかい?」
「は、はい……。初めてなので、最初はシルヴェリオ様が一緒に踊ってくださります」
その後は、貴族令嬢たちがたまに口にしていた‶壁の花〟とやらになりたい。
貴族ではなく平民の自分は、花ではなく雑草となるのかもしれないが。
「そうか。――では、シルの次にダンスを申し込ませてもらうよ。よろしくね」
「……!」
甘い顔立ちを存分に活かした眩い微笑みを向けてくるネストレを見て、内心ガクガクと震えた。
もしもダンス中に足を踏んでしまったら、不敬罪で捕まってしまうのではないかと思うと、頬が引き攣りそうになる。
(だけど、断るのも不敬になりそうだし……どうしたらいいの……っ!)
とはいえ、答えは既に出ている。
ダンスの誘いを受け、本番で粗相をしないように練習に打ち込むしかない。
何度も繰り返し練習すれば、体が覚えてくれるだろう。調香する時の勘を身につける事と同じだ。
「ぜ、ぜひ、よろしくお願いします」
いつの間にか、とんでもないことになっているような気がする。
舞踏会ではどうなってしまうのだろうかと想像するだけで早くも緊張してしまい、心臓が駆け足になってしまう。
「シルヴェリオ様、ダンスの練習をもう少し増やしたいのですが、お時間をいただいてもいいでしょうか?」
「ああ、何度でも一緒に練習しよう」
シルヴェリオが快諾してくれたため、胸をなでおろす。
しかし、ふとシルヴェリオの深い青色の目が優しく眇められていることに気づいた時、落ち着いたはずの心臓が再び騒がしくなり始める。
(何度も練習できるのはありがたいけれど――練習を重ねるということは、何度もシルヴェリオ様の手や肩に触れるってことだよね!?)
おまけに、ダンスではいつもよりも近い距離でお互いを見つめるのだから、気を抜いたらシルヴェリオを意識していることが顔に出てしまいそうだ。
なにも気にせずにいられたら、好きな人とダンスを踊るために一緒に居られる時間が増えるなんて夢のようだろう。
しかし、身分が違う相手への想いを隠さなければならないのだから、夢に浸ることなんてできない。
どうにかして、隠し通さなければ――。
(舞踏会の日までに、心臓が持たなくなりそう……)
自分で自分の首を絞めてしまったようで、頭を抱えたくなった。