唇を隠して,それでも君に恋したい。


「たまにでいいから。2人きりの時,抱きしめたいと思った時に抱きしめたい」



こんな風に,と。

敦は片手を伸ばし,ぼくの頭を自身の方に傾ける。

僕はぴゅっと離れて,またうんと答えた。

慣れない距離にどうしてだろう。

僕の方がずっと好きなはずなのに。

こうもこの関係を受け入れるのに時間がかかり,どこか負けたような気持ちになるんだろう。




「さっきの」

「ん?」

「1個ずつなら,いいよ。クレープでもたい焼きでもたこ焼きでもラーメンでも」

「食いもんばっかだな」

「うるさいな。大きい魚を見るのは苦手なんだよ」




敦が笑う。

僕はそれだけでホッとして,泣きたくなるくらい嬉しいんだ。

僕から返せるものはこんな言葉しかない。

急にいろんなことをするのは怖いから……

1つずつでいい。

1つずつ,作っていけたらそれで。

僕らはいつか,この関係にも慣れて。

幸せになれるかもしれない。

そんなことを夢見ながら,敦と仮にも男である僕はラーメンを完食した。

夜風に吹かれ,不思議な気持ちになる。

そわそわとして,つい敦を向いた。



「送る。行こう」

「……ううん,いい」



僕らーS・Pーは,国運営の施設で育つ。

今は学校の位置関係上一人で暮らしているけれど,それを言えばきっと心配してしまう。

僕が敦を送ってもいいけど,今日はそこまで望まないだろう。

だから


「ん」



僕はバッと両手を広げて横を向く。

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