唇を隠して,それでも君に恋したい。



「賭けをしよう。伊織。疑ってるわけじゃない。ただこんな風に別れるのは嫌だ。もし,俺が耐えられたら……もう逃げないでくれ。いくつ隠し事があってもいいだから」



吐息が両手にかかる。

僕は本気なのだと分かって,本気で狼狽えた。

だめだ,僕は。

敦にこんな瞳を向けられて,これ以上拒む事なんて出来ない。

もう一度,今度は右手で僕の手首を掴んで。

簡単に抗えるほどの力だと感じながらも,僕は。

促されるまま,その手を外して受け入れた。

あぁ,神が存在するなら。

あなたは本当に最低だ。

こんなにも幸せな悪夢を,僕に突きつける。

二人の混ざった吐息が,空に溶ける。

僕は,敦を見つめて,たった一言問いかけた。



「ねぇ。どう? 敦。ー僕の事,まだ好き……?」

「……ああ,好きだ」




幸福で,幸福で。

その頬を流れる涙に微笑みを向ける。

顔が歪むのは止められなかったけれど,だけど。

ありがとう。

苦しいよね,ごめんね。

うん,うん……〜っ。

ごめん。

君のことが,僕は世界で一番大好きだ。

ー結局,敦は僕の毒に抗えなかった。

それは僕にしてみれば思った通りで,敦を責められるはずもない。

寧ろ今,こうして耐えて座っているだけ奇跡に近い。

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