唇を隠して,それでも君に恋したい。
ボクはコイの"代償"をシハラウシカナイ。
ボクのソバに居るひと。
それから,僕の毎日は歪なものになった。
明らかに,敦だけを避ける毎日。
昼食の時間には,用事があるからといつも席を外した。
敦が時折物言いたげに僕を見つめたけど,それでも僕が気づかないふりをするのを見てそれを実行に移すことはなかった。
これ以上僕に拒否されるのが怖いから。
たった一度のキスで残り続ける言いしれない感覚がまだ脳に焼き付いているから。
それだけじゃない。
僕は何かききたげなスズの視線も,不機嫌そうな三太の視線も,心配そうなリューの視線も。
"それが君の決めた答えなん?"
そんな,責めるような失望したような和寧の視線からさえも。
僕は目を逸らして逸らして,いつの間にか,3年生になっていた。
皆の中で僕と一緒になったのは,スズひとりだけ。
三太が,僕とスズに向かって
「変わったけどまた遊ぼうな」
と言った。
スズは迷わず頷いて,僕は
「ごめん。三太。僕はあんまり会えないかも。そろそろ受験勉強しなくちゃ。ほらここ」
そう,誰もが名前だけは知っているような僕自身すら名前しか知らない大学のパンフレットを見せて,要するに。
三太との間に,線を引いた。
流石に咎めるようにスズが声を上げたけど。
僕はさっそくと背を向けて,図書室へ向かった。