唇を隠して,それでも君に恋したい。
「伊っ織くーん! おまたせ♡」
「なっ」「ゆ,百合川さん?」
壊れてしまいそうな心が,一気に形を取り戻す。
どこからか走って来た百合川さんが,軽快な足取りで僕に飛びつき,その頭を抱きしめたのだ。
「や,やめ」
ふにゅんと知らない柔らかさに,僕は咄嗟に羞恥心を覚え抵抗する。
けれどがっちり僕をホールドしている両腕は,その程度の抵抗では数ミリしか動かずそれもすぐ戻された。
諦めて力を抜くと,百合川さんも僕が苦しくないように少し緩めてくれる。
いつの間にか,今にも飛び出しそうだった涙は引っ込んでいた。
「えっと……? どういう関係で? 百合川さんは,失礼だけど……あの1件以降,伊織に拒絶されてなかったかな」
「えっと,だから彼女は」
そんなこと言われたって,僕にも分からない。
何でいるのか,何をしに来たのか。
おまたせって,何のこと?
「えへへ。ユリユリ,しばらく伊織くんと一緒にいるの。ほら見て,実はユリユリ頭いいの。伊織くん凄く偏差値の高い大学に行くんでしょ。2人で勉強すれば,お互いに良いことしかないから」
「学年総合5位?」
「……伊織は君の順位すら知らなかったみたいだけど?」
「そりゃそうでしょ。今初めてわざわざ先生に印刷してもらった成績持ってきたんだから。ほら行こう? 図書室の席,無くなっちゃう」
百合川さんは強く僕の腕を引っ張った。
それから何かを確認するように僕の顔を覗いて,またにこりと笑う。
そうか,百合川さんは,僕を守ってるんだ。
僕の涙を隠して,ここから離そうとしてそれでこんな事を。
僕はため息をつくと頷いて,スズに別れを告げたままスタスタと引っ張られる。