唇を隠して,それでも君に恋したい。
初めてのオンナノコ。
長く重たい眠りから目覚める。
そのきっかけは,やけにしつこく煩わしい着信音だった。
何度も何度もそのコールを無視して,僕は顔をゆがめながらようやく音のする物体を手に取る。
勝手に切ってしまえば,またかけなおされた。
『ピッ』
「もしもし,だれ」
『ユリユリだよ~,起きた?』
百合川さん……
なんとなくそうじゃないかと思っていた。
こんなにしつこくて僕の事情などお構いなしに電話をかけ続ける人など三太か百合川さんくらいだろう。
「お陰様で」
こほっと小さい咳とともに短く返す。
彼女は嫌味ともとれるそれを受けて,何も堪えないかのようにくすくすと笑った。
百合川さんは最近,そういう笑い方をする。
気分よさげなその声は高く響くのに,不思議と嫌な気分にならない。
それどころか呼吸がしやすくなって,僕はすぅと再びスマホを握ったまま眠りにつきそうになった。