唇を隠して,それでも君に恋したい。

ボクへ最後のツウコク。

「伊織! 見て,購買のメロンパン! 限定クリーム入りだって」

「よかったね。ヒメ……甘いもの好きなの?」



朝から他クラスにも関わらず,遠慮なく元気なヒメをみて,自然に笑顔がこぼれる。

こんなこと,いつぶりだろう。

僕は当然見せつけられたメロンパンに目を移した。



「チョコクリーム?」

「そう! しかも生クリームも! 板チョコも割って入ってるみたい」

「豪華だね」

「うん。だから,ユリユリ,お昼に伊織と食べようと思って」

「僕,お弁当なんだけど……」

「だから,ちょっと分けて。シェアしようよ」


ぴょんと僕の机に手をついて飛び跳ねるヒメを宥めて,僕はいいよと頷く。

ふいに,ヒメが小さくせき込む。

ごまかす様に僕から視線を逸らしたのをみて,僕は素早くヒメを捕まえた。



「ヒメ……もしかして風邪ひいたの? この間の僕のせい?」

「ち,違うよ。ユリユリ別に」

「言い訳しない。……ごめんね,やっぱり無茶だったね。ありがとう」


言いながら,そっとカバンにあった予備のマスクを耳にかけてあげる。

びっくりと目を丸くしているヒメをみて,お揃いみたいになったななんて考える。

ぼぅっとしばらく見つめて,いつもより更に外野がうるさいことに気が付いた。

< 139 / 163 >

この作品をシェア

pagetop