唇を隠して,それでも君に恋したい。
「ヒメ,好きだよ」
ヒメは切なくて,でも幸せそうな吐息で笑ってくれる。
「ユリユリも,だいすきだよ」
ヒメが僕の頬へついばむようなキスを送った。
万が一を考えると,同じものを返すわけにはいかないから。
僕は抱き締める腕に力を込めて,抱き締める体勢のまま包み込むようにヒメの頭をぽんぽんと撫でる。
そして,彼女の身体を解放した。
「また明日ね。これから,よろしく,ヒメ」
「楽しみだね,伊織。またね」
僕たちは互いにさよならを使わず,僕はヒメの背中を送った。