唇を隠して,それでも君に恋したい。
ボクの"サイゴ"の……
あいも変わらず,僕はヒメと毎日を過ごしていた。
窓の外を見ながら風に吹かれ,ついぼーっとしていると,ヒメは小さく問いかける。
「寂しい? 突然転校しちゃったんでしょ,黒田くん。伊織,特別仲良さそうだったのに」
「うん。でも大丈夫。どうして?」
「伊織,前より増して考え込むことが増えた気がするんだけど,それってあの人が転校してからじゃないかなって思って」
僕は苦笑して,もう一度大丈夫だと返した。
考え込みもする。
何度も和寧の言葉を思い出しては,繰り返し繰り返し。
それは僕の今後の人生を決定すると言っても過言ではない提案だ。
だけど,分かっている。
僕の心は,とっくに決まっていることを。
ふと甘い匂いが鼻をかすめた。
誰かが持ち込んだ何かだろう。
今は,もう日が落ちる,そんな時間。
「ヒメ」
「ん? なに,伊織」
「ありがとう。僕はヒメの時間とか,気持ちとかたくさん受け取って。それなのにヒメには必要ない勉強を少し見る事しか出来ない。それでも……僕には君が必要だ。毎日笑えるのは,通えるのは君がいるからだ」
「な,なに? 急に。ユリユリが勝手にしてるだけなのに。寧ろいつも一緒にいられて嬉しいよ!」
ふっと綻んで,僕はそっぽを向いた。
「ヒメ」
「な,なに?」
さっきより上擦った声色に,僕も少し緊張しながら口を開く。
僕は僕が思うよりずっと意気地がないのかもしれない。