唇を隠して,それでも君に恋したい。

僕はナニモノ。

「……あ,伊織……」



教室に入って直ぐ,僕を見たスズが困ったように眉を下げる。

僕は,スズの耳にも届いたんだなと思った。



「さっき俺の友達が来てさ。伊織,この数日で誰かとなんかあったりした?」

「百合川 姫?」



遠回しな言い方は無駄だと気付いたんだろう。

スズは苦笑して,ひとつ頷いた。

僕が否定すると,スズはすんなりと受け入れる。

こう言うところが,スズの人に好かれるところなんだと思う。



「どんな子なの,その人」



出身中でもなければ,去年のクラスメートでもない。

どうして突然僕なんかと。



「可愛い子だよ。特に男子の中では一際目を引くみたいだね」



スズは言いながら,僕の奥へと目を向けた。

周囲のざわめきにつられて,僕も後ろへ振り返る。



「失礼しまぁ~す♡」



とんっと。

何故か突然の来訪者の彼女は,当然のように僕の隣へと立った。

さすがに驚いて目を剥くと,真ん丸の黒目に捉えられる。

白い肌,目元の小さなほくろ。

ぷくりとした唇。

真っ黒な黒髪は,ハーフのツインテールになっていた。

白と黒のはっきりした,モノトーンな人。

多分,この人が

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