唇を隠して,それでも君に恋したい。
ボクの辿り着いた"ミライ"。
オトナになった僕たちは。
「いーおーりー!」
「うきゃーっあはは!」
大学を卒業し,国の支援で院も卒業し,さらに6年後。
早くもアラサーとなった僕の太ももに,ドンっと子供の頭が引っ付いた。
「未来! 晴翔!」
僕はその衝撃に目を見張って受け止める。
そして優しく引き離すと,そのまだ小さな存在と目を合わせるためにしゃがんだ。
「こら,走ったら危ないだろ?」
「怒るなよ~今日はお祝だって和寧が言ってたぞ!」
「ねぇ私たち,主役なんでしょ! 見てこのお洋服! 可愛い!!」
「怒ってないよ。今日はお客さんがいるからいつもみたいにバタバタしたらダメなんだ。未来も。そうだね,皆が頑張ってくれたから今日があるんだよ。ドレスもタキシードも似合ってる。汚さないようにね。ところで,ほかのみんなはどうしたの?」
僕がふと2人の後ろに目をやると,僕が他のと呼んだ皆がやって来ていて少しホッとする。
今日は僕らが,高校卒業後の全てを費やして秘密裏に行ってきた,とある研究成果の発表日。
「やぁ,ウィル。ごめんね,1人で皆を見るのは大変だろう? 特に未来と晴翔はまだ来たばかりで,君の母国語が通じないから」
約20名。
主に保育園年長~高校卒業前の子供達。
ウィルを含め,うち数人はとっくに成人している。
ちらほらと見える異国の子供達は,わざわざ国籍まで変えてもらった子供達だ。
皆僕ら研究に手を貸してくれた,この研究になくてはならない存在。
今日の発表兼パーティーの主役と言っても差し支えない。
皆の笑顔に,僕は思わず涙腺を緩くした。
辛い思いも苦しい思いも,きっと怖い思いだってさせた。
それでも僕を責めることなく,いつだって協力してくれて,彼らはいつも幸せそうに子供らしく笑ってくれた。
まだあと十数人いるはずだけど,そこは別の年長者がついていてくれているのだろう。
また何度だってお礼を言わなくては。
どの子も,みんな僕と同じ。
S・Pとして生きる,家族を持たない者たち。
いや,持たな"かった"ものたちだ。
その運命を断ち切るための研究が今日,終わりを迎える。